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episode 17.光の狼煙《アルメナーラ》
見張りは、前回同様、ソーカルが一人、他の三人は二人一組で担当することに決まった。
深夜の部は、トレフル・ブランとキーチェの組が担当することになった。
アパートメントの屋根の上で、雪と風で作っためくらましの幕に隠れつつ、町の様子を見下ろす。
カラフルな壁に照明が照り映え、闇の中で明るく輝く町並み。この平和で美しい光景をぶち壊してやろういう気持ちは、トレフル・ブランにはない。強い憎しみとは、そこまで常識を蝕んでしまうものなんだろうか。
(あれ、なんか俺、自分が常識人みたいに思ってるな。まぁ、フォ・ゴゥルは、わりと常識的で真面目な性格だったと思うけど)
先生だけに育てられたなら、自分も常識のなんたるかを理解していなかっただろうな、と漠然と思う。
「ひとり作戦会議? 私にも、共有してくれると嬉しいんだけど」
考え事に没頭して、キーチェのご機嫌を損ねてしまったようだ。
「ごめん。でも別に、たいそうなことを考えいたわけじゃないよ。どうやったら、この美しい町を憎めるのかなと思ってさ」
トレフル・ブランの視線を追い、キーチェも町並みを見下ろした。
「私にも、想像がつきませんわ。私は、私を疎んだ親族を好きではありませんけど……だからと言って、家を、国を、恨もうと思ったことはありません」
キーチェはくるりと白金の錫杖を回した。
「自分の置かれた立場をかえりみて、誰かをうらやんだり、誰かを恨めしく思うことは確かにあるのかもしれません。でもそれは決して、誰かを傷つけてよい言い訳にはなりませんわ」
「そうか……そうだよね」
ペルルグランツの置かれた立場は、幸福なものではないかもしれない。だからと言って、国を恨み、国民に危害を加えるような真似を許してはならないのだ。
(でも、本当にペルルグランツは不幸だったのかな? 養父母は、彼に優しくしてくれなかったんだろうか。自分が、誰かの憐れみによって生かされたことを知っているのだろうか)
また考え事の海に沈んだトレフル・ブランを見遣り、キーチェは仕方がないとでも言うように、小さなため息をついた。
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