episode 18. 雪男の戦士

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episode 18. 雪男の戦士

 それは、岩魔導人形(ロック・ゴーレム)と雪男の合作とでもいうような代物だった。雪男が岩石の鎧を身にまとっているという表現も出来る。右手に無理やり折ったらしい巨木で作ったらしい棍棒を、左手に岩石の盾を構えていた。  ソーカルが風の衝撃波を放った。が、岩石の盾で防がれる。それにはヒビひとつ入らない。かなり強化に力を入れているようである。  ソーカルは舌打ちした。 「接近戦に切り替える。後続を足止めしろ」  言うなり、ソーカルは地を蹴って風のように新手の白い無法者(ヴィート・ギャング)・雪男の戦士の背後にまわった。そして、分厚い剣で脇をすくいあげるように斬った。雪男の戦士は、半分切れかかった左腕をぶらぶらさせながら雄たけびを上げていたが、再生能力はないらしく、やがて左腕は重力にしたがいボトリと石畳に落ちた。雪の腕が徐々に溶け、水がしみ出す。  ソーカルはすかさず、石畳に転がった岩石の盾を破壊した。強化した風の魔法をまとった剣で、岩石のすき間に鋭い突きを入れたのだ。このあたりの手腕は、さすが歴戦の魔法騎士(アーテル・ウォーリア)である。  トレフル・ブランとしても、のんきにその戦いを眺めていたわけではない。彼は第二のポケット(セカンドポッケ)から藁を結んだような輪っかを取り出すと、後からやってきた雪男の戦士の足元に放った。  足元が雪であれば効果は薄かっただろうが、石畳に固定された藁の力はそれなりのもので、足を引っかけた雪男の戦士は、前に進めなくなった。  効果があることを実感したトレフル・ブランは、さらに藁を取り出し、両足を地面に縛り付けた。その後、藁の輪っかを空高くに放り投げ、落下と同時に雪男の戦士の胴体と両腕をぐるぐるときつく縛った。これで、棍棒も盾も使えまい。  それから、低く不気味な雄たけびをあげる雪男の戦士の口(とおぼしき雪の穴)に融雪剤を放り込んでみたが、やはり強化されているようで、融雪剤の結晶はそのまま吐き出されてしまった。  すると、 「恵みの水(プルウィア)」 よく通る声が響き、雪男の戦士の首から上がびしょ濡れになった。キーチェからの援護だ。  水に侵食され耐性が緩んだことを幸いに、トレフル・ブランは、もう一度融雪剤を口に放り込んだ。今度は、融雪剤がしっかり効果を発揮し、雪男の戦士は頭からドロドロと溶け出していく。やや気味の悪い光景に、トレフル・ブランは眉をしかめたが、溶ける雪の中に、光るものがあることに気付いた。  キラリ、と光るそれは、雪男の戦士の背中の部分から出てきたようだ。氷のナイフ――おそらく氷柱に魔法で細工をして作った呪具だろう。これが、この雪男の戦士の核であると予想された。  それを手に取る。透明なナイフの中に、一粒穏やかな光を放つ粒。真珠だ。真珠を魔法の起点としてこの戦闘向きの魔導人形(ゴーレム)を作り上げたのだ。 「教官! 弱点は背中です! 真珠を使った呪具が仕込んであります」 「そうか」  トレフル・ブランの声に短く答えたソーカルは、剣を振るって背中を斬ろうとしたが、大きな岩石がその部位をカバーしていて、剣が弾かれた。彼は低く早口で呪文を詠唱したので、トレフル・ブランには内容が聞き取れなかったが、剣の第二撃は、今度こそ背中の岩石と、その下に埋め込まれた氷柱のナイフ――ゴーレムの核を破壊した。  核を破壊された雪男の戦士はピタリと動きを止め、ぼろぼろと崩れて最後はただの水になった。棍棒が投げ出されて、ドサリと鈍い音を立てる。 「それ、壊しとけ」  ソーカルは指示すると、トレフル・ブランが融雪剤で溶かした雪男の、棍棒と岩石の盾を破壊した。放置しておくと、再利用される恐れがあるからだ。  トレフル・ブランも指示通り石畳に転がった棍棒を破壊し、あたりは急激に静まり返った。
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