episode 19. 復讐のその先に

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 ドーム状の建物の中は、高い天井から吊るされたシャンデリアに灯った魔法の灯りにぼんやりと照らし出され、石柱の見事な装飾と相まって幻想的な空間となっている。その中央の床に、幾重にも術式を施された魔法陣が描かれていた。敵の移動を防ぐため、今は機能を停止している。 「キーチェが見たら興奮しそうだね」  ユーリは言い、オリオンから降りた。 「それには同感だけど、警備の人数が足りてない。ブランカたちにも協力してもらおうか」  うっすらと雪の積もった駅の前には数人の兵士がいたが、そのほかの場所はほとんど無人だ。時折、二人組の兵士が巡回しているが、仄暗いこの建物の中では簡単に侵入を許してしまうだろう。よほど魔法の感知に優れた人材がいるなら話は別だが。基本的に、国の軍隊に入るのに魔導士資格は必要ないため、中にはまったく魔法の使えない兵士がいてもおかしくないのだ。  トレフル・ブランは、ブランカとオリオンのふさふさした尻尾の先に、銀と黒い宝玉で作られた指輪のような呪具を取り付けた。二匹を誘導し、駅の奥を指し示す。 「ここからスタートして、円を描くように走って、またこの地点に戻って来て」  この地点、とトレフル・ブランが示した場所には、ブランカたちが身に着けているのと同じ呪具が置かれている。  二匹は勢いよく駆け出した。薄暗がりに消えて行くその背を見送る。 「これは、侵入者用の結界かな?」  ユーリが訊いた。  トレフル・ブランは頷く。 「そう。侵入者を察知したら、その方角と人数を教えてくれる。ってことで、ユーリもこれを持ってて」  例の指輪のような呪具をユーリに手渡す。 「俺たちは、ここから動かないほうがいいだろうね。うろうろしてたら、侵入者とすれ違いになっちゃいそうだから」  もっとも、何事もなく朝が迎えられるに越したことはない。と、面倒ごとが嫌いなトレフル・ブランは心から思っている。  しばらくすると、ブランカとオリオンが戻ってきた。二匹の通った軌跡と、起点となる呪具が交差したことを確認したトレフル・ブランは、呪具を拾い上げ、それを自分の指にはめた。  その呪具を撫でながら祈るトレフル・ブラン。 「なんにも起こりませんように!」  後ろにいたユーリが「無駄な祈りって気がするんだけどなぁ」と呟いているのは、無視することにした。
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