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デザートの木の実を食べる段になって、ようやく四人目が姿を現した。
ソーカル・ディーブリッジ。なかなか渋いハンサムの中年男性だが、髪はボサボサ、無精ひげは剃らない、外套もつぎはぎだらけという有様で、しかもそれがポリシーだと公言し、いつも咥え煙草をふかしている。美容と礼儀にうるさいキーチェですら、彼を更生させることは諦めざるをえなかったようで、いつもの格好で食卓にやって来た彼をちらりと非難を込めた眼差しで見たが、口に出してはなにも言わなかった。
ソーカルは、三人の見習い、つまりひよっこ魔導士たちの指導にあたる教官である。魔導士としての大先輩であり、本来、三人にとっては頭の上がらない相手であるはずだが(初級魔導士認定試験を受験する際、推薦状ももらわなくてはいけないので)、当人が「堅苦しいのは嫌いだ。フツーにしとけ」と言うもので、現在のところわりとフランクな関係を築いている。
その彼が、トレフル・ブランの木の実を横取りしながら言った。
「おい、お前ら。雪だるまを倒しに行くぞ」
「「「……はい?」」」
三人、息の合ったリアクションだった。
コホン、とキーチェが儀礼的な咳ばらいをする。
「教官、やはり煙草の吸いすぎは健康に良くありませんわ。少々控えられるのがよろしいかと」
「煙草の吸いすぎでアホになったんじゃねぇっての。見ろ、これだ」
そう言って、ピラリと彼が指先でつまんで示したのは、一枚の黄色い紙片である。
ユーリが眉をしかめた。
「黄色い指令書⁉」
ソーカルが手にしていたのは、魔導士協会からの指令書、それも緊急を示す、通称黄色い指令書だった。
キーチェも不安げに、「本来なら、見習いの私たちのところに来るようなものじゃ……」と呟いている。
トレフル・ブランとしては、別のところに着目したかった。
「それで、教官。まさか、その指令書が、『雪だるまを倒せ』なんて非常識なこと命令してるんじゃないでしょうね」
「そのまさかだ。いや、話が早くて助かるな。さて、移動の準備をするか」
「待って! まず、事情の、説明をっ!」
そそくさを席を立とうとするソーカルの袖を引っ張り、トレフル・ブランは説明を促した。
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D113班 殿
緊急指令
パゴニア王国北東部で多発している、雪だるまと思しき存在による事件を解決せよ。なお、これはパゴニア王宮からの緊急要請である。至急、現地へ赴かれたし。
魔導士協会本部 平和維持局局長 ノーマン・セルディーライ
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