episode 19. 復讐のその先に

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 ブランカたちの援護があるにしても、ひとりあたり五匹と対峙せねばならない。なかなか厳しい戦いになりそうだった。 (こちらは戦力の追加が見込める。教官たちが来るまで、戦況を長引かせる!)  トレフル・ブランは、握り締めた真鍮に魔力を集中させると、六つ目の白い犬を床に串刺しにした。そこに、追加の術式を展開する。 「雷光(スパーク)!」  電気を呼び起こす、初級の地火風水を使った魔法である。真鍮の短剣が避雷針の役割を果たし、電流は床につなぎ留められた一匹に集中する。  バチィッと大きな音を立て、その体ははじけ飛んだ。後には、焦げてひび割れた真珠が残された。  白き闇の眷属に、純粋な地火風水の魔法は効かない。闇払いの基本である。 「こいつら、真珠を核にした魔導人形(ゴーレム)だ! 核を壊して!」  トレフル・ブランの隣で、ブランカが六つ目の白い犬の首をかみ砕いた。コロンと軽い音がして、壊れた真珠が転がる。  ブランカは、トレフル・ブランが白き闇の眷属をもとに作った聖獣(イノケンス・フェラ)である。眷属の中には、その牙や爪に魔法耐性を持つものが多く、ブランカもその耐性を受け継いでいるようだ。 (この状況で、ラッキーな発見だね)  トレフル・ブランは、二匹目の六つ目の白い犬も雷光(スパーク)で焼き払った。  一方で、炎そのものを宿すユーリの剣は、切り裂くだけで敵を(ほふ)ることができた。ユーリの背後では、オリオンも牙を立てて奮闘している。  兵士たちは、簡単な魔法ならば使えるようだったが、耐衝撃・耐炎属性を強化された魔導人形(ゴーレム)を破壊できるほどの使い手はいないようだった。彼らは必死で自分の命を守るために戦っていたが、当面、ひとり一体を引き付けてくれるだけでもありがたいと、トレフル・ブランは思った。援護する余裕がないのだ。  トレフル・ブランは、六つ目の白い犬が固まっている地点を見定めて、術式を発動させた。 「発動(オーブ)!」  白い無法者(ヴィート・ギャング)のために組み立てた術式である。石造りの地面から温水が湧き出し、一定範囲で渦を巻く。六つ目の白い犬は足元から溶け出し、悲鳴じみた叫び声を上げる。  魔法を発動させる術式というものは、その場で組み立てるのは難しいが、事前に仕込んでおくことは比較的簡単にできる。術式を組み立てて保存し、簡単な一言で発動させる仕組みにしておけば、乱戦の中で長い呪文詠唱をする必要がない。  この度、雪で作られた魔導人形(ゴーレム)が建物に侵入したときのことを考慮してトレフル・ブランが生み出したのが、温水の渦という罠だった。 「雷光(スパーク)!」  半分溶けかけた六つ目の白い犬数匹に対し、電気ショックを与える。雪で出来た体は破壊され、核として使われた真珠が転がった。無傷のものは、剣で叩き割っておく。これで、この真珠を使って再び魔導人形(ゴーレム)を生み出すことはできない。  自らの手足となる魔導人形(ゴーレム)たちが破壊されていくのを見たペルルグランツは歯ぎしりして叫んだ。 「何故だ! 何故邪魔をする、外国人! 僕は騎士団の連中を殺してやりたいんだ。この国の連中に復讐してやりたいんだ。関係ないやつは引っ込んでいろ!」  ペルルグランツの背後から、吹雪が吹き荒れた。  トレフル・ブランは吹っ飛ばされ、石材の床に転がる。  そこへ、一匹の六つ目の白い犬が駆け込んできたので、トレフル・ブランは反射的に片手で顔を覆った。  銀の万年筆を闇雲に振ったが、目前の危機が回避されたことはすぐに知れた。ブランカが、トレフル・ブランを襲った一匹に噛みついているのが見えた。  急いで立ち上がり、後ろ手に持った万年筆を使い、呪文を書き始める。 「ねぇ! どうして騎士団の人たちを殺したいなんて思うのさ!」  完成までの時間稼ぎに、もう少し、ペルルグランツから情報が引き出せればと考えて、トレフル・ブランは言った。  ペルルグランツは笑った。見るものぞっとさせる暗い笑顔だ。 「騎士団長が、僕を山に捨てて、殺そうとしたからさ」  ペルルグランツは少しずつこちらへ向かって歩いてくる。いつ、あの吹雪が襲ってきてもいいよう、トレフル・ブランは防御の術式を完成させた。  逆に少しずつ後退しながら、慎重に言葉を選ぶ。 「騎士団長が、君を殺そうとした? 俺が聞いた話とは、ちょっと違うね」 「何が違う。僕は、病床の両親から確かに聞いたんだ」  じりじりと後退しながら、「ご両親は、君にどんな風に言ったの?」と尋ねる。
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