episode 19. 復讐のその先に

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 ペルルグランツは、ポケットから新たな真珠を取り出し、放り投げた。また新たな六つ目の白い犬が生まれる。 (これは、ちょっとまずいな)  内心、冷や汗をかくトレフル・ブランの前で、ペルルグランツは語った。 「自分たちが死んだら、王宮の騎士団長に連絡を取れと。彼が、万事うまく取り計らってくれるだろうと――贖罪(しょくざい)のつもりか、くだらないね」  前後左右から不規則に襲い掛かって来る六つ目の白い犬に対し、全方位防壁(ディレクシオン・ミュール)を発動させるトレフル・ブラン。しかし、これを使ってしまうとその場から動けないし、魔法の効果は永遠ではない。いつかは崩れ去るだろう。  話を長引かせようと、トレフル・ブランはさらに声をかけた。 「君は、ご両親の話を素直に受け取るべきだ」  そして、ペルルグランツがある箇所へ差し掛かるのを待つ。 「なんだと?」 「君がふたたびひとりになったことを知れば、グラヴィティ騎士団長は、君が困ることのないように取り計らってくれただろうさ。だって、君を助けてご両親に預けたのは、ほかならぬ彼自身なんだから」  ペルルグランツの表情が、激しい感情によって歪んだ。 「嘘だ! お前は、嘘をついている!」  トレフル・ブランは、苦労して笑顔を作った。 「嘘じゃないさ。騎士団長も、嘘は言ってないと思うよ。あの場で俺たちに嘘をつく理由が、特に見当たらないからね」  十五年前にあった出来事のすべてを、ペルルグランツは正しく知らなかったのだろう。だが、ここで他人から事実を聞かされたところで、彼の中にある復讐心が揺らぐとも思えない。  ギリリ……と歯ぎしりの音が聞こえそうに唇を震わせながら、ペルルグランツがこちらへ迫ってきた。彼は、静かに右手を挙げた。 「答えは、騎士団長から直々にきいてやるさ……お前を殺してな! 雪の牢獄(ニクスバースチケン)」 (! こいつ、魔力も大きいおまけに、技のバリエーションも豊富だな)  トレフル・ブランは、球体の耳飾りの片方を外して前方にかざした。 「大いなる光盾(グレイス・ルミエール)!」  先生から譲り受けた技で、一方向に対してほとんど完全な防御を示す光の壁をつくる。ペルルグランツが魔法で生み出した、上部から覆いかぶさるように流れる雪崩を、光の壁が食い止める。呪具(耳飾り)を使って、効果を高めてもいる。こちらの防御力が勝り、雪の奔流は消え失せた。 「!? お前、一体何者だ…!」  警戒の色を濃くしたペルルグランツに対し、トレフル・ブランはなるべくさりげない様子を装って言った。 「俺の名前は、トレフル・ブラン。ちょっぴり偉大な魔法使いの弟子で、二度孤児になった魔導士見習いだよ」
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