episode 19. 復讐のその先に

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 ユーリは黄金の礼装剣を縦横にふるい、次々と六つ目の白い犬を斬り払っていった。その残骸に向かって、兵士が剣を突き立てる。核となる真珠が割れた。そんな兵士たちの背後を、オリオンが駆け回ってサポートする。役割分担が出来ていた。  人数が多い分、多くの六つ目の白い犬がユーリたちに飛び掛かって行った。ユーリが時折気づかわし気な視線を寄越すのに気付いてはいたが、ペルルグランツによって分断され、連携は難しい状況だった。  トレフル・ブランは、開き直る心境になっていた。 「俺は半人前の魔導士だし、まだ成人してもないし、社会的な力なんてこれっぽっちもない。家族も、いない。でも、一人前の魔導士になりたいって、目標だけは持ってる。君は、何を持っているの? 他人に誇れるものは何かあるの?」 「僕には、この国の奴らに制裁を与えてやりたいっていう、復讐心がある!」  両手を広げて叫ぶペルルグランツ。  それを見る、トレフル・ブランの瞳に、憐れみの分子が紛れ込んでいることに、彼は気付けただろうか。 「復讐した、その先は?」 「その、先……?」  ペルルグランツから立ち上る気迫が、瞬く間にしぼんでいく。  六つ目の白い犬たちが、戸惑ったような主人のほうをうかがった。 「復讐して、騎士団長を殺して、たとえば王様も殺したとして。その先、君はなにになりたいの? 何を望むの?」  たとえば、国王になりたいというなら、混乱ののちに国を治めねばならない。騎士団長を殺すのが最終目的なら、人質をとるなりして騎士団長を引っ張り出すのもありだろう。  ペルルグランツのやっていることは、無秩序で無意味な破壊だ。その先を、何一つ考えていない。幼い子供が、力任せにアリの巣を壊しているようなものだった。  今や、ペルルグランツの声は震えていた。 「復讐が、復讐が僕の目的だ! やりたいことだ!」 「だから、復讐して、その後は? ご両親のお墓を守って生きるの?」 「……」  ペルルグランツは頭を抱え込んだ。よろめいた拍子に、片足がトレフル・ブランの罠を踏む。  かかった! と、トレフル・ブランは、魔法を発動させた。地面に描かれた術式から幾本もの蔦が伸び、ペルルグランツの体に絡みつく。 「君のやりたいこと、王国の人たちの前で話してもらうよ」 「……断る! 氷の刃(スティーリア)!」  トレフル・ブランの放った罠を切り離し、ペルルグランツは逃亡した。  ユーリが最後の一匹を倒し終えたのは、ちょうどこの時だった。
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