episode 20. 少年王・コラルグランツ

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episode 20. 少年王・コラルグランツ

「遅かったか」  到着したソーカルがため息まじりに呟くのを聞き、「本当に、遅かったですね」と言おうとしたトレフル・ブランだったが、さすがに大人げないと感じてやめた。救援が遅れたのには、それなりの事情があったであろうことぐらい察しがつく。  後ほど、キーチェから聞いた話によると、北の港には雪男の戦士が大挙して押し寄せたらしい。あちらでも満足に魔法の使える兵士が少なく、苦戦したそうだ。    というわけで、トレフル・ブランは戦力の底上げを試みることにした。 「剥離(ディクリイ)! ……あ、成功した。案外出来るもんだね」  ユーリにも、トレフル・ブランが考案した、相手の耐性を引き剥がす術式を伝授したのだ。キーチェの作った雪のゴーレム相手に練習していたユーリは、満足のいく結果に笑顔を見せた。  教官に頼んで、この魔法を王国側にも伝えてもらっている。これで末端の兵士の幾人かも、『剥離』が使えるようになるはずである。 「で、これも渡しておくね」  トレフル・ブランは、巾着袋の形をした第二のポケット(セカンドポッケ)に融雪剤を詰め込んで、ユーリとキーチェのふたりに手渡した。 「防御力強化の耐性さえ弱らせてしまえば、効くはずだから」  魔法の対策はいたちごっこだ。こちらが何か手を打てば、向こうはそれを上回る、あるいは回避する、あるいは無効化する手立てを考える。それを見てこちらも対応する。だが最低限できることはやっておかなくてはならない。 (今度は、衝撃や炎だけじゃなく、水や電気に対しても耐性を付与してくるかな……いや、すべて対策するには、魔導人形(ゴーレム)の数が多すぎる。ふつうの雪だるま兵に、そこまで手をかける余裕はないだろう)  となれば、雪だるま系のゴーレムはなんとか兵士たちに対応してもらい、主力となる強力なゴーレムを、王国の騎士たちや魔法騎士(アーテル・ウォーリア)であるトレフル・ブランたちが引き受けるほかない。 (問題は、あの六つ目の魔犬なんだよね。敏捷性が高い。ブランカたちをあてるにしても数が多い。どうやって対応するかな……)
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