episode 20. 少年王・コラルグランツ

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 外出していたソーカルが会議室へ戻ってきたことに、トレフル・ブランはまったく気付かなかった。  ソーカルが視線で問うと、キーチェが「きっと、ひとり脳内作戦会議ですわ」とやや拗ねたように答える。彼女は、自分が蚊帳(かや)の外に置かれることがお気に召さないらしい。 「まぁまぁ。トレフル・ブランには、脳内で考えを熟成させる時間が必要なんだよ。食べ物で釣ってみたら現実(こっち)に戻って来るんじゃないかな」  とのんきに笑っているユーリの後頭部に向かって、アーモンドを一粒投げつけるトレフル・ブラン。 「途中から聞こえてる。教官、王国側の反応は?」  ソーカルはドサッとソファーに身を沈ませ、ナッツを口に放り込む。 「歴史から抹消されたはずの現国王の弟がご乱行ってんで、葬式みたいな雰囲気だぜ。報告するこっちまで気が滅入っちまう。まぁそれはお国の事情ってやつで放っておくにしても、こう魔導人形(ゴーレム)の種類が多いんじゃ、対策立てるのも一苦労だ。どうせ、お前さんの考え事もその(たぐい)だろう?」  ホットミルクの湯気をあごにあてながら、「まぁそんなところで」とトレフル・ブランは応じる。  ユーリも熱心に頷いた。 「まるで魔導人形(ゴーレム)の見本市だもんなぁ」 「雪ばかりですけどね」  キーチェも応じ、紅茶をひとくちすすった。  ユーリにせがまれてミルクの入ったコップを渡すと、彼はそれを自分のマグカップに注いだ。カフェオレが作りたかったらしい。  ソーカルは憮然とその様子を見ていた。 「お前らホントになぁ。俺の分も用意してやろうっていう気づかいは?」 「少々お待ちを」  キーチェがコーヒーを淹れているところだった。  ソーカルは礼を言ってそれを受け取り、トレフル・ブランとユーリに意味ありげな視線を寄越した。 「無粋な男どもと違って、気が利くね」  キーチェの頬が赤く染まった。嬉しそうだ。  ユーリは苦笑してソーカルの発言を受け入れたが、素直にそうしないのがトレフル・ブランという少年だった。 「無粋な男の筆頭が何を言ってるんですか。この中で一番むさくるしいの、誰だか知ってます?」 「……言うねぇ」  別に否定するつもりはないのか、ソーカルは開き直ったように肩を竦めた。
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