episode 20. 少年王・コラルグランツ

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『どういうことなのでしょう。諦めてくれたのなら、ありがたい話ですけれど』  炎の中に、イオディス・トーレの姿がゆらゆらと揺れている。ソーカルが銀のライターで受信した立体映像である。 「そりゃないんじゃないですかね。相当の憎しみを持って、王国に仕掛けてきているようですから。それで、行方は分からないんですか?」 『えぇ……。完全に痕跡を絶っています。そうでなくても雪深いこの季節、特定の人物の追跡は難しいものです』  王都にいるイオディスとの間に開かれた通信を、トレフル・ブランたち三人も隣に座って聞いていた。  重苦しいため息で、炎が揺れた。騎士団長トォオーノ・グラヴィティだ。 『一体、“彼”はどこへ消えたというのだ。行く場所など、もうどこにもないというのに……』  その声には、深い悔恨と苦悩が感じられる。  トレフル・ブランは、この台詞に引っかかりを覚えた。  ソーカルに合図を送ると、彼は軽くあごをしゃくった。「話せ」ということらしい。 「横から失礼します。トレフル・ブランです。彼が生まれ育った、木こり夫婦の住んでいた家は、もう捜索しましたか?」 『……なんだと? 彼は、あそこにいると言うのかね』  トレフル・ブランは頷き、それだけでは相手に伝わりにくいと思い直して「えぇ」と声に出した。 「孤児である彼の帰る場所は、この世にたった一つしかありません」  大人たちが、顔を見合わせる気配がした。  軽く咳払いして、「当たってみても良いのでは?」とソーカルが言った。 「見当がないなら、とにかくそれらしいところを当たってみるのもいいでしょう」 『あぁ……そうじゃな。イオディス、手配を』 『はい、かしこまりました、閣下』  そこへ、パタンという扉の音が響いた。  ソーカルたちはイオディスが退出した音ではないかと思っていたが、違った。 『陛下!!』  トォオーノの太い声が響く。  ソーカルは炎の陰を白い壁に投影し、見える範囲を広げた。古い映画のようにちらちらと点滅しながら、イオディスたちの様子が映し出される。  立ち尽くすトォオーノ、イオディスの前に、ひとりの身なりの良い少年が立っていた。  コラルグランツ・エーレパゴニア。若干十五歳の、パゴニア王国の現国王。  状況から考えて、その人でしかない。  トレフル・ブランは、緑の双眸を見開いてまじまじと少年王を観察した。 (なるほど、たしかに双子だ……)  線の細い体、繊細に流れる銀の髪、そして青い瞳。ペルルグランツと名乗った少年と瓜二つだ。ただひとつだけ、その瞳には曇りがなく、晴れた日の海のような美しい青色をしていた。  少年王――コラルグランツは、一同を見渡して微笑んだ。 『魔法騎士(アーテル・ウォーリア)のみなさん、初めまして。私の名はコラルグランツ・エーレパゴニア。この国の王です』  でしょうね、とも言えず、トレフル・ブランたちはその場に立ち尽くした。
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