episode 21. 復讐者の起源

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episode 21. 復讐者の起源

 ある晴れた朝。  前日に積もったまっさらな雪の中を、二台の緑色に金銀の装飾が施された馬車が往く。通常より体も大きく毛足の長い品種改良されたであろう馬は、魔法の力で雪に埋まることなく、力強く馬車を牽引する。  その馬車の前方車両に乗り込んだトレフル・ブランは、いささか不機嫌な面持ちで、 「たぶん、教官の日ごろの行いが悪すぎる。もしくは、何かにたたられている」  と呟いた。  隣に座ったユーリが「まぁまぁ」と苦笑まじりに言った。 「今日はご機嫌斜めだね。そんなに嫌だったのかい?」 「……とても、ね」  真っ白な雪と青い空の美しいコントラストは、トレフル・ブランのささくれだった心をわずかに慰めてくれたが、機嫌をなおすまでには至らなかった。  ソーカルは紫煙をくゆらせつつ「だからってな、俺に八つ当たりすんなよ」とぼやいている。  ソーカルの隣、ユーリの真向かいに腰かけたキーチェは、両腕を組んで呆れたように首を振った。 「まったく、ただでさえ扱いづらいのに、機嫌を悪くされると手に負えませんわ」 「同感だねぇ」  うんうんと頷きあっている二人。ユーリはほろ苦い笑いを浮かべている。 「……もしかして、俺ってちょっとめんどくさいやつだと思われてる?」 「自覚ねぇのか。重症だな、おい」  ソーカルがにやりと人の悪い笑みを浮かべる。  ユーリもキーチェも視線で同意した。  心外だ。薬草音痴の熱血漢と、家無しお嬢様にまでそんな風に思われているなんて。  彼らよりは、自分のほうがよっぽどマシだと信じているトレフル・ブランは、一冊の本を開いた。気を紛らわせるために『魔法分類学』の勉強に専念しよう。 「あ、ヤバイ。俺もテスト勉強しなくっちゃ」  というユーリの慌てた声が、どこか遠くから聞こえた気がした。  やがて、二台の馬車がたどりついたのは、雪深い山村だった。  真っ白な雪が目にまぶしく、その上を横切る(わだち)だけが生き物の存在を感じさせる。青く澄んだ空の下、ゴツゴツした山と針葉樹林にも白い雪が降り積もり、あたりは一面の銀世界。遠く山奥から、長く尾をひく鳥の声が響いた。  一台目の馬車から降り立ったのは、ソーカル一行。そして二代目の馬車からは、騎士団長トォオーノ・グラウディ、その側近のイオディス・トーレ、そして現国王コラルグランツ・エーレパゴニアと、さらに二名の兵士が降り立った。 「こちらです、陛下」  トォオーノが厳めしい顔つきと声で、少年王コラルグランツを案内する。  そう、このたびの目的地は、ペルルグランツが生まれ育った山小屋だ。 (遭遇する危険が高いって言ったのに。なんでついてくるかな)  トレフル・ブランの不機嫌の原因はこれだった。  国王を守りながらの戦い――はっきり言って面倒くさいの一言に尽きる。ソーカルやトォオーノがいるとはいえ、万全の体制とは言い難い。コラルグランツはいったい何を考えているのやら。
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