episode 21. 復讐者の起源

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 その時、肩にポンと大きな手が置かれた。ソーカルだ。 「お前さん、国王がのんきに物見遊山に来たんだろうと思っているんだろうが、たぶん違うぜ。なんにしても、眉間にしわが寄ってるの、どうにかしときな」  トレフル・ブランは、我知らず唇をとがらせて抗議した。 「だって、ペルルグランツがいる可能性が高い、危ない場所だって忠告したのに」 「だから、じゃねぇか。直接会ってみたいんだろう、十五年前、生き別れた弟に」  そう言われて、トレフル・ブランは黙った。  自分に生き別れの兄弟がいたとしたら、やはり会ってみたいと思うだろうか。そしてその兄弟が悪事を働いていると知ったら、どうにかして止めたいと願うだろうか。  わが身に置き換えてみると、コラルグランツの苦悩が少しは理解できるような気がした。つまり、まだまだ他人の立場を思いやることができない、自分は未熟者だという証でもある。  先ほどまでとは異なる意味でやや憮然としているトレフル・ブランに、ユーリが声をかけた。 「大丈夫だよ。屋外だから、俺もキーチェも大技が使える。六つ目の犬の対策だってしてきただろう?」  そう、王都の魔導士協会と連携しつつ、ペルルグランツが使役する俊敏な魔導人形(ゴーレム)についても対策済みだ。  たったひとりで王国と戦わんとするペルルグランツと、トレフル・ブランたちの違いはここにある。トレフル・ブランたちは、チームで情報を共有し、それをもとに対策し、役割を分担することができるのだ。 (けどきっと、ペルルグランツはそんなことを知らずに育ったんだろう。俺も、ひとつ歯車が違えば同じ道を歩いていたかもしれない……)  トレフル・ブランは、ユーリに控えめに頼みごとをした。 「戦いになっても、なるべくこの小屋を破壊しないで欲しい。彼の帰る場所は、きっともうここしか残っていないから」  トレフル・ブランが、故郷はどこかと問われれば、先生と暮らした湖のほとりの塔を思い浮かべるだろう。生まれた国や、それまでの経緯に関係なく。  故郷とは、最後の心の拠り所ではないかと、この時トレフル・ブランは感じていた。  ユーリは快諾し、二人とも先を進むソーカルたちの後に続いた。
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