episode 21. 復讐者の起源

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 木こり夫婦の小屋には、誰もいなかった。  それなのに、今にも小屋の外から「ただいま」と年取った夫婦が戻って来そうな、そんな雰囲気が残っていた。  角の欠けたテーブル、暖かそうなクッションが置かれた椅子、使い込まれた台所、ところどころうっすらとシミの付いたラグ――暖炉に火をともせば、すぐにでもつつましやかな暮らしが甦りそうな、懐かしさを覚える空間。 「ペルルグランツは……弟は、ここで育ったんだ。十五年間、真っ白な雪と、優しい両親に囲まれて」  コラルグランツの瞳に映った光は、曖昧に揺らいで見えた。  トォオーノとイオディスは、静かにコラルグランツの傍に控えている。  ソーカルたちは外の見張りをしていたが、トレフル・ブランはなんとなく国王一行について山小屋の中に入った。自分の目で、ペルルグランツの育った場所を確認したいと思ったからだ。  『記憶の再生』魔法をかける。  すると、そこには在りし日のつつましく穏やかな、しかし幸せに満たされた生活が映し出される。  陽気な父がたくさんの雪だるまの魔導人形(ゴーレム)を動かす。幼いペルルグランツの遊び相手になればと作った力作だ。ペルルグランツは、動く雪だるまたちと戯れながら、雪原を駆けまわる。そこに、母のやさしい声が響く。「夕飯のシチューができましたよ」と。ペルルグランツは大喜びで、粗末な山小屋に駆け込んでいく――。  トレフル・ブランはそっと瞳を閉じた。 (あぁ、やっぱり。ペルルグランツの故郷は、ルーツはここにあったんだ)  再生した映像にしみじみ見入っていると、ふと視線を感じた。目を開けると、コラルグランツの深い青色の瞳がこちらを見つめていた。
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