episode 21. 再会と、後悔と

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episode 21. 再会と、後悔と

 木こり夫婦の小屋とその墓に姿がなかったことから、ペルルグランツはここにはいないだろうと、騎士団長トォオーノ・グラウディは言った。  しかし、トレフル・ブランには確信があった。ここ以外のどこにも、ペルルグランツが心の行き場所を求められないことを、トレフル・ブランは知っていた。  そこで、キーチェとともに魔力を探知(サーチ)する。白い世界に、水の波紋が広がるように、トレフル・ブランとキーチェの薄く引き伸ばされた魔力が染みわたって行く――そして、キーチェが金褐色の双眸を開いた。その視線は、東の森を向いている。 「ありました。人間の持つ魔力と、ほかにいくつかのぼんやりとした魔力……魔導人形(ゴーレム)を従えているのかもしれませんわ」  ソーカルが剣を抜いた。 「俺たちが先頭に立つ。国王陛下には、すみませんがしばらく身を隠していただきます。騎士団長どの、そちらはお願いします」 「あい分かった」  重々しくトォオーノは頷き、コラルグランツも異は唱えなかった。  雪深い針葉樹林を進んだ。  それは、麓の町へ通じる林道だった。ザクザクと雪が音を立て、トレフル・ブランたち四人の足跡を描いていく。ときおり重みに耐えかねて小枝が折れたり、雪の塊が降ってきたりと、薄暗い森の中は思いのほか静寂だけに満たされているわけではなかった。どこからともなく、聞きなれない鳥の声が響く。  少し遅れて、国王一行も姿を忍ばせつつ着いてきているはずだった。彼らには、キーチェの得意な『水の屈折結界』のほか足音を目立たなくする魔法をかけてある。  しばらく進むと視界が開けた。  森の中にぽっかりと、鈍い輝きを反射する空間がある。半ば凍てついた湖だ。  その湖にせり出した岩場の上に、目的の人物を見つけた。  銀色の髪と青い瞳を持つ繊細な容姿の少年。トレフル・ブランたちが追う白い無法者(ヴィート・ギャング)を操る犯罪者。王国への復讐者――ペルルグランツだ。  しかし今、彼は巨悪を背負った犯罪者ではなく、拠り所のない頼りなさげな存在として、池のほとりに座り込んでいた。トレフル・ブランたちの接近には気付いているだろうに、視点を遠くに投げやったまま、振り返りもしない。  彼のまわりでは、雪だるまたちが遊んでいた。左手に手袋をはめたもの、マフラーを巻いたもの、帽子をかぶったもの。それぞれが、不格好に雪を積み上げたり、小さな雪玉を投げ合ったりして、幼い子どものように楽しそうに、しかし無言で雪遊びをしている。ペルルグランツの関心の外で無心に遊ぶ彼らの姿は、いたいけなようでいて虚ろな印象を与えるものだった。
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