episode 21. 再会と、後悔と

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 風になびく細い銀髪、すらりとした体つき、複雑な感情をたたえた青い瞳――まるで鏡を見ているようだ、と互いに思ったことだろう。生まれて初めて、兄弟が対面した瞬間だった。  白い世界に、沈黙が漂った。どちらも、一言も発さず、鏡合わせのような互いの姿をじっと見つめている。  今日はじめて、ペルルグランツの表情に感情が浮かんだ。悲しみと後悔と怒りとやるせなさと、色んなものがブレンドされているように、トレフル・ブランには感じられた。その青い双眸は、湖の光を反射して頼りなく揺れている。 「どんな気分だ、コラルグランツ。弟の愚行を前にして、お前は何を思う?」  コラルグランツは唇を開きかけ、しかし何も言わずに閉ざした。言うべきことが見いだせなかった、あるいは整理できなかったのだろう。 「僕は間違いなく愛されていた。父母と暮らした時間は、たしかに幸福だった。それなのに僕は、彼らの願いを踏みにじって平和な生活を壊し、この国の人たちの命を生活を奪い、恩人であるトォオーノの命まで狙おうとした。僕には僕の幸せを心から思ってくれる人たちがいたのに、なんて愚かな、取り返しのつかないことをしてしまったんだろう……!」  ペルルグランツの青い瞳に、涙がうっすらと光った。それはやがて雫となって頬を伝い、ほどなく冷気にさらされて白く凍りつく。  コラルグランツはぎゅっと唇を引き結び、首を左右に振った。 「ペルル、君は遅かった。気付くのが遅かった。今さら悔いても、なにも戻ってこない。失われた人たちの命、君のご両親との幸福な時間――君はもっと早くに、そのことに気付くべきだった」  トレフル・ブランは、やるせない気持ちでふたりのやりとりを眺めていた。 (国王の言うことは正しい。でも、それこそ今さら無益な話だ)  だがしかし、とコラルグランツは続けた。 「君以上に、私自身がもっと早く、君のことに気付くべきだった。母の病から目を背けず、父の罪をあがなうべきだった……」  トォオーノやイオディスの制止も聞かず、コラルグランツは再会した弟に、一歩また一歩と歩み寄った。  潤んだ瞳で、ペルルグランツはその様子を見守っている。  すぐに動けるようソーカルなどは外套の下で剣を抜いていたが、この兄弟は今、そんなことに関心はなさそうだった。  同じく青い瞳から、一筋の涙が伝った。ペルルグランツの顔に驚きの色がよぎる。 「すまない……長いこと君ひとりに、王族の罪を背負わせてしまった。本当にすまない。ペルル、やっと出会えた、私の弟……」  静かにたたずむコラルグランツの前で、ペルルグランツは思い切り表情を歪めた。そして、拳で地面を叩く。ボスンと音がして、その拳は雪に埋まった。その瞳からは透明な涙があふれ、喉からはとぎれとぎれの嗚咽が漏れ出していた。 「……ごめ……っ! コラル、せっかく出会えたのに、こんな、情けない僕でごめん……」  
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