episode 22. 旅立ちの駅

1/5
前へ
/70ページ
次へ

episode 22. 旅立ちの駅

 頼みがある、と国王コラルグランツは言った。  その内容を協議したのち、ソーカルは了承した。イオディスには異論がありそうだったが、トォオーノは黙して語らず、コラルグランツは静かなまでに落ち着き払って、自分の意志を押し通した。ペルルグランツは、呆然と雪の上に座り込んでいた。 * * * * *  兄弟の再会から一週間。  パゴニア王国は、白い無法者(ヴィート・ギャング)を操って国に危害を及ぼした首謀者を捕らえたと発表した。 「犯人は、ペルルグランツ。現国王陛下の、双子の弟である」  同時に伝えられたこの情報に、国中がざわついた。ペルルグランツの出生の秘密から、一連の事件の目的が復讐であったことまで、詳細な内容を全国民が知ることとなった。  そう、コラルグランツは、真実を隠すことなく国民に発表したのだ。  紫煙を吐き出しながら、ソーカルが言った。 「俺たちが口を挟む筋合いじゃありませんが――しばらく王宮の中も外も騒がしいでしょうな」  向かいに腰かけたトォオーノが、苦笑まじりに頷いた。 「あぁ、そうじゃろうな。だが、わしは陛下のお考えを支持するよ」  ペルルグランツの罪は罪。しかしそれは、遡れば前国王の犯した罪が産んだ罪である――。  コラルグランツは、国民に向かって語り掛けた。  不確定の未来への不安から小さな命を奪おうとし、結果その子どもが復讐を求めて国に襲い掛かった。この因果を、隠すべきではないと、彼は語った。 「一度目の誤りを、二度目の誤りで正すことはできない」  そう言って傲然と前を向く若い王に、臣民たちはそれぞれ思うところを胸に沈黙した。  ペルルグランツは、王族として正式に家系図に名を連ねることになった。  同時に、王族として国家を害した罪は重いとして、自らを裁くことを命じられた。離宮に幽閉された彼は、毒を煽って自殺した――これも、王宮の公式発表である。  それを聞いた臣民は、あるものはそれが当然と言い、あるものは少年の境遇を思って涙した。被害にあった村や、犠牲になった人々の遺族には国から手厚い保証が約束され、事件は一応の落着を見た。  ソーカル・ディーブリッジも、事の次第を包み隠さず魔導士協会に報告した。  だが、彼があえて報告書に記載しなかった内容がある。それが、国王コラルグランツと協議した結果の判断だった。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加