episode 22. 旅立ちの駅

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 幌馬車は人ごみの中をゆっくり進み、王都中央駅に到着した。そこから移動用魔法陣(テレポーター)を使って、北側にある町の小さな僧院に移動する手はずになっている。  幌から降りるとき、ペルルグランツは目深にフードを被った。トレフル・ブランたちも続いて降りる。  人でごったがえす中央駅には、各地方へ向けて複数の移動用魔法陣(テレポーター)が設置されており、それぞれ足元に行先の案内が刻まれている。  北への移動用魔法陣(テレポーター)周辺は比較的人が少なかった。出迎えに来た尼僧がぺこりと小さくお辞儀をした。  ペルルグランツも彼女に向かって小さく会釈し、トレフル・ブランたちの傍から離れる。 『まもなく、北部キリリク行の魔法陣が発動いたします。移動されるお客様はお急ぎください』  駅に流れるアナウンスをBGMに、しばしトレフル・ブランとペルルグランツは向かい合った。 (こんな時に、なんて言えばいいのかな)  トレフル・ブランはゆうべから考え続けていたのだが、結局平凡な言葉しか見つけられなかった。 「体に気を付けて、元気でね」  それを聞いて、ペルルグランツは苦笑したようだった。 「そんな風に言われるとはね。あぁ、せいぜい長生きして善行を積むさ――そちらも元気でな」  その言葉が終わるか終わらないかのうちに、魔法陣が発動し、ペルルグランツと尼僧の姿は光に包まれて消失した。 「行ってしまいましたわね」  キーチェが言い、トレフル・ブランはなんとなく頷いた。  そのまま、トレフル・ブランたちも国外へと出国する移動用魔法陣(テレポーター)へと移動した。こちらには検問があり、それぞれ魔導士協会の身分証を提示する。行先は、魔導士協会の本部があるトラモンティン共和国だ。  ユーリが『新薬草学分類図鑑』を抱きしめてうめいた。 「どうしよう、トレフル・ブラン。試験まで一週間しかないのに、やっぱり全部、緑と黄色の葉っぱにしか見えないよ。ホウレンソウとチンゲンサイってどうやって見分けるのかなぁ」 「……そんな家庭的な問題は出題されないと思うけど」  ソーカルとキーチェが、呆れた様子でそのやり取りを見ている。 「おい、ユーリ。今さらそんなこと気にしたって始まらねぇだろ。お前の場合は、炎の操術士(そうじゅうし)受けときゃいいだろ。初級魔導士は二級でいいんだから」  ちなみに、トレフル・ブランたちが受験する初級魔術師認定試験に合格するには、担当教官の推薦状があるほか、魔導士協会から出された課題をクリアすること(これはトレフル・ブランたち三人とも製作済み)、呪文士(じゅもんし)五級以上の資格を取ること、そのほか『基本六種』と呼ばれる科目から一種以上の科目を取ることが求められる。  つまり、課題と呪文士を除けば、自信のある科目を選んで受験できるため、そこそこ合格率は高いのだ。 「たまにいるけどな、呪文士五級取れないやつ。お前、追い込みやるならそっち勉強しとけ」 「はい……」  しおれるユーリを、キーチェは余裕の表情で見上げている。彼女の場合、四元素どの操術士のうちどれを選んで受験しても合格するだろうし、呪文士五級も問題ないだろうと目されている。  ソーカルの視線が、トレフル・ブランを捉えた。 「お前、受験種目決めてんのか?」 「まぁ、魔法騎士と、地の操術士の両方受けてみようかと」 「ふぅん、頑張れよ」  自分から尋ねたくせに、あまり関心のなさそうな返事である。
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