episode 3. 雪の大国、パゴニア王国へ

2/2
前へ
/70ページ
次へ
(さて。俺たちが暇つぶしの漫才をやっている間、パゴニアの案内人はどうしているのかな)  そう、トレフル・ブランたちとて、好き好んで強風で不規則に雪が舞う戸外に出ているわけではない。移動用魔法陣(テレポーター)はきちんと屋内に設置されていたのだが、王国の案内人が迎えに来る約束の時間となったので、戸外へ出てそれらしき人影を探していたのだった。  その時。タイミングよく、雪を舞い散らしつつ進んできた黒い大きな車が、トレフル・ブランたちの前に停車した。見た目は、旧暦の時代から使われていた乗用車に似ているが、魔法を動力として動く、人を乗せて移動させるための魔導自動車である。現代においては、集団移動用の魔導具や装置、その経路が発達しているため、個人が車型の魔導具を持つことは珍しい。これもむろん一般人のものではなく、ボンネットにパゴニア王国の紋章がデザインされていた。  車から、ひとりの人物が降り立った。  スッと背筋の伸びた、すらりと背の高い女性だった。長い黒髪、紫がかった黒いコートに、ひらひらと雪が舞い降りる。色白の(おもて)にかけられた銀フレームには雪がついておらず、「これはなにか、便利な雪よけの魔法がかけてあるな」とトレフル・ブランは見た。  ソーカルが一歩前に出て、右手を差し出した。相手も応え、なめらかそうな手袋をはいた右手を差し出し、「遅れて申し訳ありません。イオディス・トーレと申します」と名乗った。パゴニア王国において、軍部の最高位を表す騎士団長の命で派遣された、近衛兵のひとりだということだ。  代表者同士が軽く自己紹介を済ませたところで、一行は迎えの魔導車に乗り込んだ。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加