episode 4. 白い無法者《ヴィート・ギャング》

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episode 4. 白い無法者《ヴィート・ギャング》

「遅れたことの言い訳ではありませんが、本日もまた、雪だるまとおぼしき存在による、山間部の村の襲撃事件が発生しまして」  車の中で、さっそくイオディスは状況の説明を開始した。  彼女の話によると、約束の二時間ほど前、山間部の小さな村が、雪だるまの集団に襲われ、多数のけが人が出たということだ。幸い死者は出なかったが家屋や家畜の被害も大きく、医療魔導士、護衛の兵士、土木関係の応急処置に関わる魔導士などの手配に追われていたのだという。 「なるほど。しかしその、雪だるまとおぼしき存在ってものが、我々にはピンとこない。もう少し詳しく話してもらえるとありがたいんだが」 「それはご覧になったほうが早いでしょう。みなさま、受信できる呪具はお持ちで?」  全員がうなずいて、それぞれの荷物からそれを取り出した。  呪具(じゅぐ)、というのは魔法の操作を補助する、それ自体になんらかの術式が込められた道具を言う。材質も形も様々だが、人間の意志が伝わりやすい銀などの金属をベースに、魔力を封じるのに適した宝石類、呪文・呪術的紋様などで装飾されているものが一般的だ。  一昔前まで、魔導士協会で推奨されたのは木製の杖だった。現代においては、各々自分に合った“杖の代わりとなる”アイテムを所持して、自分のスタイルに応じて魔法を使用することを基本とする。木製の杖を呪具――つまり魔法を扱う際の補助媒体――として使っているのは、相当な年寄りの魔法使いくらいのものだ。呪具なしでも魔法は使えるが、その有無によって、効果・威力・範囲・魔力消費量に歴然とした差が現れるので、魔導士協会でも積極的に開発に励み、民間での生産も奨励している。  当然、トレフル・ブランたちも複数そういった(たぐい)の呪具を所持していた。   キーチェは持ち手のついた楕円形の手鏡を、ユーリは折りたたみ型の四角い鏡を取り出し、トレフル・ブランはいつも首から提げている正円の青銅製の鏡を手に取った。先生から門出の品としてもらった呪具のひとつである。  三人が鏡の形をした呪具を取り出したことには理由がある。それは、凹凸のない平らな面が、魔力によって発信された動画・静止画などを映像化するのに適しているからである。少し細工を施せば、音声の再生も容易い。  ソーカルだけは、鏡を使うのでなく、複雑な紋様の描かれた銀色のライターに火をつけた。ゆらゆらとオレンジ色の炎が立ち上がる。これは鏡より一歩進んだ情報の受信方法で、炎の熱の届く範囲に、立体的に情報を映し出すことができる仕組みとなっている。  それぞれ準備ができたことを確認し、イオディスはコートのポケットからすらりと光沢のある精緻な細工の万年筆を取り出した。これが彼女の呪具、魔法での情報伝達を助ける道具なのだろう。  イオディスが、万年筆を軽く振ると、装飾品の一部が淡く発光した。その光はスゥと四本の帯を描いてそれぞれの手元に飛び、手にした呪具に「村を襲う雪だるま」の映像を映し出す。
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