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『ん?さっきまで調剤棚の上に…あ、ほら、いたいた』
錠剤が五十音順に並べられた薬棚の上にその姿はあった。
水色の手術着のまま猫のように伸びて棚にその身を預けている。いつものことだけど、そこから伸びる細い足がやけになまめかしく、ゆっくりぱたりぱたりと動いている。朝から見るものではない気がする。いつもと違うのは暇そうに虚空を眺めているわけではなく、どこからとってきたのか漫画を肘をつきながら読んでいることだ。
「…どこからとってきたの、それ」
『…医局』
とんでもないところからとってきているな。
「ばれないようにしなよ?」
『…早く行きなよ、職務放棄薬剤師』
髪の隙間からじろりとこちらをみる目にいらっとする。そっちこそ職務放棄学生のくせに。職務放棄薬剤師のままなのは癪なのですぐにいくことにする。
「いってくる」
いうなり私はトップスピードで走って救急救命病棟を目指す。
『いってらっしゃい』
『いっといでー』
そういって手を振ってくれる予感がする。ドアから出てなきゃいいけど。いや。大西さんは別にいい。武田さんは他の人に余計なことして見つからなきゃいいけど。
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