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「な、なん」
『ああ、薬剤師さん。こんばんは』
何でという前に向こうから、さもいつも通りというように挨拶された。とういうか私が薬剤師ってすぐわかったのか。なんか感動する。…じゃなくて。
『その節はどうも』
「あ、いや…」
『この時間だとここからは出られんのかな?』
「あ、はい」
『ああ、そうなんか。いや、家族どこいったかなおもうてね。探したんやけど見当たらんくて。孫の顔でもみて見送ろうかとおもうたんやけど』
完全に色々言い出しそびれた私。とりあえず頷いてはいるけどきっと微妙そうな顔になってたんだろう。武田さんが少し申し訳なさそうに
『ところで薬剤師さん、今日は体軽いんやけどやっぱり病室からでたらいけんかったかな。病棟で看護師さん達探しとった?』
「あ、えっと」
どうしよう。でもここで適当にいっても必ずばれる。病室に今ここにいる武田さんが(本物の幽霊だとして)戻ったとしても家族さんも武田さん本人の体もないんだから。
「あの、実は、武田さん、その、武田さんは。昨日、亡くなったんです」
本人が亡くなってるはずなのにその本人に亡くなってると、どんな顔をして告げたらいいのかわからなくてつい顔を伏せて小さい声で言ってしまった。なんて言われるだろう。体をこわばらせていても何の言葉も降ってこない。もしかして聞こえてなかったのかな。ちゃんと伝えなきゃいけないのに。
『そうやったのか』
覚悟を決めた私が武田さんの反応をきちんと見ようと顔を上げるのと武田さんが言葉を発するのはほぼ同時だった。
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