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第一章 「フラウクロウに磔は似合わない」-3
「おい、あれ!」
誰かが指を指した。
広場の中央で高く燃え盛る炎。突然に広場に吹き込んだ突風にあおられ、更に火柱は天高く燃え上がっていく。
「おお……これは」
四方の街路から広場へ吹き込む風は更に強くなり、火柱は渦を巻いて更に高くなっていく。
「裁判長様、司祭様、危険です。お下がりください!」
「これは……」
すでにサミュエルの姿は業火の向こうに隠れてしまっている。
「おお……これは間違いなく神の啓示……。我々が悪魔の戦いに勝利したことを祝福して下さっているのです」
司祭が炎を見上げて跪いた。
しかしすぐに兵士に脇を抱えられ、後ろへ下げられる。
「火柱が強すぎます! もっと下がって!」
民衆が見守る中、轟々と燃え盛る炎は存分にサミュエルの体を焼きつくし、やがて少しずつ勢いを弱め、小さくなっていった。
半刻も過ぎる頃には完全に鎮火し、兵士が死体を検めるため火刑台に近寄った。
しかし、よく探してもサミュエルの死体はどこにもなかった。彼を縛りつけた木柱には確かに火の回りが遅かったという痕跡が残っている。ところが骨の一欠けらさえ、見つけることはできなかったのだ。
「神の御業です。神が、悪魔を完全に滅ぼしたのです!」
兵士の報告を聞き、自分の目でも有様を確認した司祭は興奮した様子だ。裁判長は戸惑いながらも壇上にあがり、民衆向かって火刑の終了を宣言した。
この日、街に蔓延っていた悪夢の根源が断たれた。
人々を食い物にし、善良な市民を脅かした悪魔は滅んだ。
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