第一章『脅迫状』

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阿部の皮肉に対して、 「そんなんじゃないですってぇ!遅れたのには理由があるんです」 トモは焦って否定した後、呼吸を調えながら言葉を続ける。 「実はナオ・・・じゃなくて、町下君がお腹が痛いって言うので保健室に連れて行ってたんです」 「イタタッ・・・」 ナオはトモが「・・・お腹が痛い・・・」と言った時に、お腹を押さえながら本当っぽく呻き声をだした。 (う~ん、我ながらなかなかの演技!今度、俳優のオーディションでも受けてみっかなぁ♪) なんてことをノーテンキにナオが考えていると、 「あらっ、そうなの?町下君、大丈夫?保健室で寝ててもよかったのよ」 いつもは厳しい阿部が、うって変わったように優しい言葉をかけてきた。 普通の人ならここで「何か変だぞ」と思う所だが、ナオは阿部が自分の演技に引っ掛かったと思って調子に乗ってしまった。 お腹を押さえたまま「大丈夫です」と言って、阿部が自分ではなくトモの方を見ている隙に、リナに向かって小さくVサインをした。 いつもなら、ここでリナもVサインを返してくるのだが、なぜか今日は両手の人差し指を交差させた。 (えっ?バツ!?バツって何が?俺何かミスったか・・・) ナオは思わぬ返事に頭が混乱した。
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