寂しさ

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なんだかんだと話しているうちに僕の住んでいるマンションが見えてきた。駅近なのが売りらしいが、正直なところあまり近いとは感じない。なぜなら直線距離ならば目と鼻の先なのだが、駅からここに来るまでに割と急な階段を2回登ってこなくてはならないからだ。しかもその階段の片方が地味に長くて、急な為、近所では修行道とまで呼ばれる始末である。 「はぁ、はぁ、翔、、だいっじょうぶか、はぁ、ここ、な階段、修行道って、はぁ、呼ばれるくらい、なん、だぜはぁ、はぁ。」 息が切れて途切れ途切れになりながらも翔の方を見ると、なんと息一つ切れている様子はない。 「な、んなのお前、、なんでそんな息、きれてねーんだよ。」 翔は、そう問われてもとでもいうように首を傾げている。そして、何か思いついたようにぽんと右手の握り拳で左の掌を軽く叩いた。 「訓練の成果、だな。それにしても雪、お前大丈夫か?つか、毎日そんなんなりながら家、帰ってんのか。大変だな。」 訓練ってなんの訓練だよ⁈と思いはしたが、あまり尋ねられたくないような雰囲気を感じた為、質問するのはやめにした。というのも第1、転校初日なので今日は散々色んな人から色々な事を聞かれただろうし、何より精神的にどこか疲れている筈だと雪なりに気遣っての事だった。 「んー、慣れ、、かな?あ、でも階段登ってくるからさ、街を上から見下ろせるんだ。だから、、あ、そろそろだ。」 くるりと後ろを向き指を指す。 「ほら、夕焼けがね、すっごく綺麗に見えるんだ!!」 「……………………。」 指の先では太陽が休息に入るために沈み、オレンジと赤と紫の入り混じったグラデーションを空に醸し出していた。 「僕、さ。ここの景色を見るといつも思うんだ。人間は人生っていう階段を登って登って時には降って休んで、また登るのはさ、この夕焼けを見る為なんじゃないかって。僕にとって、夕焼けなだけで、人にはそれぞれ僕にとっての夕焼けのような存在があって、その為に頑張ってるんだって。」 ふーっと、深く息をはく。 夕焼けは少しずつ宵にのまれはじめていた。 「昔、おかーさんが口癖のように言ってたんだ。階段の途中で見た景色も最高に美しいかもしれない。でも、途中で美しいなら限界を越えた先の景色はもっといいものに違いないから、脚を止めてもいいから歩き続けなさい。ってさ。」 「いい、母親じゃねーか。」 彼の言葉で我に帰ると、僕の目からは大粒の涙が溢れ出していた。 「うん、、最高の大好きな自慢の母親だよ。」 「そうか、、。」 そう言って彼は僕を力強く抱きしめてくれた。こんな所で男2人が抱き合ってるなんて近所の人に見られたらなんと思われる事か。そんな事は今は今だけは忘れていたくて気づかないふりをした。
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