6.恋は叶います。

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 九重さんと撫子さんも立ち上がって、叶奏さんのところへやって来ると、叶奏さんは緊張した表情で、  「この度は御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」 もう一度、深々と頭を下げた。 「お母様のところへ行けることになって良かったですね。私はもう狭間に帰らないと思うけれど、どうかお元気で」  撫子さんが優しく微笑む。撫子さんの言葉が気になり、 「帰らないって?」 と問いかけたら、 「私は人間界で暮らしていこうと思います」 意外な答えが返って来た。 「えっ?どうして?もう探していた女の子――叶奏さんは見つかったから、こっちにいる必要はないでしょ?」  私が吃驚すると、 「こちらの世界で働く楽しさを知ったので、私はこちらにいたいと思ったんです。お菓子屋さんのおばあさんを、ひとりで残していくのは心配ですし。おばあさん、私のことを孫みたいに可愛がってくれるんですよ」 撫子さんは嬉しそうに教えてくれた。 「行かはる前にひとつ聞きたいんやけど」  黙って私たちのやりとりを聞いていた九重さんが、叶奏さんを見つめ、口を開いた。 「あなたは若いけど、祓い屋として働いてたんやんな?人に憑いた『野狐』を祓ったりしてたんやろ?」  疑問形だったが、九重さんは確信しているようだった。  叶奏さんは九重さんの目を見つめ返すと、 「もうご存じだと思うんですけど、母親が陰陽師の安倍家の末裔で、私にも多少その力があったんです」 と頷いた。 「伯父の家から早く独立したかったので、そうしてお金を稼いでいたんです。仕事はインターネットで依頼を受けていました。ちなみに、晴明神社にいたのはただのバイトです。伯父が神主なわけではないです」 「なるほど」  九重さんは納得したようだ。 「それでは、私、そろそろ行きます」  叶奏さんは私たちの顔を順に見た後、 「お世話になりました」 とお辞儀をした。  去っていく叶奏さんの背中を、 「叶奏さん、あちらの世界で幸せになれるといいですね」 「なれるんちゃうかな」 「きっと」 私たちはあたたかな気持ちで見送った。
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