「甘えん坊の猫又」

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「ん……? お父さん?」  あれ。でも、おかしいな。  お父さんは病院にいるはずだからこの家に入れる人は誰も……。  玄関からゆっくりと足音が響いてくる。  足音は重くて、土足で上がり込んできたのだとすぐに分かった。 「……うそっ」  寝ぼけていた意識が覚醒する。  膝元で寝転がっていたはずのサスケはいない。  玄関から響いてくる足音がリビングへ近付いてくる。  とっさにキッチンの方へ飛び込んで物陰へと隠れることにした。  薄暗い中、隙間からリビングの方を覗く。覗き込むとリビングに一人の男性が侵入してきていた。 「………………」  無言のまま電気もつけずに周りの様子を窺っている。 「(……お父さんじゃない)」 「………………」 「(どうしよう、怖い、怖いよ)」  息を殺す。声が漏れそうになる口を必死で抑える。  音を立てずにやり過ごそうとする。  だけど、ポケットに入れておいたスマホが振動してしまった。 「っっ!!」  男が声もなく近付いてくるのが分かる。  ひるんで逃げてくれるかと一瞬期待したけれど、男はズシンズシンッと乱暴な足音を立ててこちらにやってきていた。 「(どうしよう、殺されちゃう……!?)」  目を瞑って耳を覆う。  あまりにも怖くて目の前の現実から逃げたくなった。  その時。リビングから聞き馴染みのある鳴き声が響いた気がした。  ニャア。  サスケが鳴いている。  男はサスケに気付いて怖い声をあげた。 「なんだ、この猫は」  ニャア。  サスケが鳴いている。  小さな頃からずっと傍で聞き続けていたサスケの声が突然に途絶える。  ニィアァァァ~~~ッ!  その代わりに、怪物のように恐ろしい声が鳴り響いた。 「う、うわわぁぁっ!? く、くるなぁ!?」  ガタンッ、ガチャンッと。激しい物音が鳴り響く。 「ひ、ひぃっ!? ば、バケモノぉ!!」  男が情けない悲鳴を上げながら走り去っていった。  物音が消えて男の気配もなくなったリビングをおそるおそる覗いてみれば。  リビングには逆毛を立ててご機嫌斜めのサスケの姿だけがあった。
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