はめごろしの夏

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 私は長年勤めてきた出版社をクビになり、負け地の関東を逃れ、関西で新たな生活を始めようとしていた。  しかし、お金がない。京都の不動産屋に紹介されたのが、このおんぼろアパートだ。  四十年は経つだろうか。白色の外壁は薄汚れ、階段はあちこちに錆が散見し、のぼる度にギシギシと音が鳴る。  私とおそらく同年代の大家は、 「安くしときまっさかい、どうでっか」  家賃三万円を二万五千円にするという。
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