3.

5/9
前へ
/17ページ
次へ
「ただ逃れるため、やみくもに進んできた。だが、そのせいで、二度と取り戻せぬ多くのものを、むざむざ失ってしまった」  顔を覆う男の手のひら。指と指の隙間から覗くその目にちらちらと映りこむのは、―――冷たい雪にも似た何か。  あぁ、違いない。もしかしたら女は、それを追っているのかもしれぬ。  女にとって、唯一、幻ではないもの。  冷たい、雪。 「おれがおらねば、皆てんでに逃げ落ちる。さすれば幾人かは、助かるかもしれぬ――」  男は深く、息を吐く。 「おれさえ、おらねば」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加