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「ただ逃れるため、やみくもに進んできた。だが、そのせいで、二度と取り戻せぬ多くのものを、むざむざ失ってしまった」
顔を覆う男の手のひら。指と指の隙間から覗くその目にちらちらと映りこむのは、―――冷たい雪にも似た何か。
あぁ、違いない。もしかしたら女は、それを追っているのかもしれぬ。
女にとって、唯一、幻ではないもの。
冷たい、雪。
「おれがおらねば、皆てんでに逃げ落ちる。さすれば幾人かは、助かるかもしれぬ――」
男は深く、息を吐く。
「おれさえ、おらねば」
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