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女はこの雪原以外のものを知らぬ。
男の身の上話など、聞いたところでやはり理解することなど、できはしない。
静けさが小屋の中に落ちる。
男は蓙の上に身を起こしたまま、誰にともなく、噛み締めるように呟いた。
「···どこまで逃げても、意味は無い。たとえ生き永らえたところで、同じことのくりかえし。どこへいこうと、逃れるすべはない」
男はひとたび言葉を切り、そしておもむろに女に対し尋ねた。
「お前はなぜ、ここに棲まう?」
ボロボロの蓙。
小さな炎。
食べ物も、衣服も、生きるためのものは何もない。あるのは幻と、無限に覆い尽くす雪だけ。
女はかすかに首をかたむける。
「····はて。ここ以外に、おるべき場所がありませんから」
ぱちん、と再び、薪が爆ぜる。
ただ、それだけのこと。
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