3.

7/9
前へ
/17ページ
次へ
 ここ以外には、あり得ようはずもない。  女のようなばけものの、在って許される場所など。 「····この雪原の真っ白な雪は、春になっても、永遠に溶けませぬ。溶けぬ雪ほど、全てを隠せるものはない―――あなたさまがここにいることも、きっと、わたくし以外には、知られぬままでしょう」  そう言って、女はそっと火箸を囲炉裏の隅に置く。  やがて藁の褥の上に上体を起こしたままの男の横に、女はゆっくりと近づいて、ひざまずいた。  冷たい手が、男の頬へ。  ひやり、と。  けれど触れたように感じられるのは、男のほうだけ。  女の指には何も、残らぬ。  触れることすら、決して叶わぬ。 「····そのまま魂を奪われて死ぬか。せめて、この世の憂いをすべて投げ出せるほどの快楽を覚えて、死ぬか。―――どうか、お選びくだされ」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加