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暗がりのなか、ふたつの視線が重なった。
しばらくの沈黙ののち、頬に触れている女の指に、男の手が重ねられ、絡め取られる。
「···お前の瞳は、そのような色に変わるのか」
何の脈絡も無い言葉。
女はゆっくりと瞬きを繰り返す。
重なった視線の奥―――その男の目に映し出される感情が、これまで相手にしてきた男たちのそれとは、全く違うことに気付いても。
ほの赤い唇を微かに吊り上げる。
「····ばけものと、思うておられましょう?」
尋ねたことに、理由など無い。
そも、心が無いのだ。
悲しいという感情も、傷つくことも、心ある者だけに許されたこと。
それゆえ、どうして聞いたのかなど、未来永劫、誰にも分からぬ。
それでも男は問いかけに対し、首を振った。
見ず知らずのばけものの、その悲しみに似たような何かを愛おしむように、冷たい指先ごと包みこんだ。
「――ゆくあてがない。ならばおれも、お前と、同じ」
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