10人が本棚に入れています
本棚に追加
凍てつくような空気が肌に触れているのに、男はもはや寒さを感じていなかった。
どうしてかなど考えるまでもなく、また考える必要もないことだった。
やがて女の唇に唇を重ね、離す。ゆっくりとその溶けそうな肢体を抱き締める。
「······せめて、おまえをあたためられれば、良かった」
男の声が、女の耳に囁いた。
永遠にその意味を理解できないはずの言葉。
女は黙ったまま、いつもと同じようにその男の欲望を掻き立てるために、絡んだ指を離そうとした。
けれど男の手が、それを阻む。
女は声を上げた。
「····何をなさります」
男は答えない。
笑って、そのままもう片方の手まで取り、女の指に指を絡めたまま、身体を横たえる。
手を引かれ、男の上に覆い被さるように、女もまた倒れこむ。
「これもすべて、幻か」
男はなおもかすかに笑いながら、女の身体に腕を回す。
「よい。これほどまでに美しければ、いまわの際に思い残すこともない―――独りでこと切れるよりも、余程よい」
そう言って女を、両腕で抱き締める。
少しずつ冷たくなっていくその両腕もまた、ことのほか優しく。
最初のコメントを投稿しよう!