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 凍てつくような空気が肌に触れているのに、男はもはや寒さを感じていなかった。  どうしてかなど考えるまでもなく、また考える必要もないことだった。  やがて女の唇に唇を重ね、離す。ゆっくりとその溶けそうな肢体を抱き締める。 「······せめて、おまえをあたためられれば、良かった」  男の声が、女の耳に囁いた。   永遠にその意味を理解できないはずの言葉。  女は黙ったまま、いつもと同じようにその男の欲望を掻き立てるために、絡んだ指を離そうとした。  けれど男の手が、それを阻む。  女は声を上げた。 「····何をなさります」  男は答えない。  笑って、そのままもう片方の手まで取り、女の指に指を絡めたまま、身体を横たえる。  手を引かれ、男の上に覆い被さるように、女もまた倒れこむ。 「これもすべて、幻か」  男はなおもかすかに笑いながら、女の身体に腕を回す。  「よい。これほどまでに美しければ、いまわの際に思い残すこともない―――独りでこと切れるよりも、余程よい」  そう言って女を、両腕で抱き締める。  少しずつ冷たくなっていくその両腕もまた、ことのほか優しく。
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