5.

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5.

 夜が明けると、真っ白な雪原に太陽が照りつけている。  きらきらと反射する白い世界の真ん中で、女は目を覚ました。  小屋は消えていた。  否、消えたのではない。  最初からどこにもなかったのだ。  男は女のそばで、雪の中にうずもれるようにして死んでいた。  その身体に昨晩まであった命はもう、どこにも残っていない。  女は感情の無い真っ白な瞳で、その姿を見下ろす。  どうしてか、男の両手が女の左手を掴んでいる。その理由はわからない。けれど男は自らの心臓に女の左手を押し当てるようにして、その凍った自らの衣の懐に差し入れたまま、死んでいた。  まるで、少しでも自らのぬくもりを、女の身体へうつそうとするかのように。
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