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―――美しくとも、寂しかろう。
「···どうして、かような、幻の家しか作れないのでしょう」
誰にともなくこぼれた呟きが、雪原に染み入るように消えていく。
雪のように白い、女のその指先が、黒く凍った男の頬を這う。
死んでしまったその男は、二度と答えることはない。
「····どうして、かような、幻でしか、つくれないのでしょう」
もう一度、誰にともなく尋ねた女の片目から、ただ一滴だけ涙がこぼれた。
ぱたり、と雪原に落ちて。
ほんの少し、わずかばかりの雪を溶かした。
「·····どうして」
―――美しくとも、寂しかろう。
けれど、死んでしまった心優しい男がそれを知ることは、やはり叶わないのであった。
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