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2.
いつの出来事なのかは知らぬ。
人里離れた北の雪原に、ぽつんと一軒だけ、みすぼらしい小屋が建っていた。
少し傾いて崩れかけた、藁葺き屋根の小さな家屋。
はて、誰が建てた訳でもない。
いつのまにかそこにあり、どんな吹雪の襲った日にも、決して壊れることはない。
なぜそこにあるのか、誰も知らぬ。
誰が暮らしているのか、誰も知らぬ。
その小屋のことを知る人間は、すでにこの世には誰もおらぬ。
その夜に限って、やけにひどく激しい吹雪が吹き荒れていた。
今にも息の絶えそうな旅人が一人、その小屋の明かりを目指して、雪原の暗闇の中を必死に這い進んでいた。
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