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唇は青紫になり、肌も土気色。ほとんど死人といってもよいほどに、凍えた身体。
閉じられた睫毛にはりついた雪の欠片。
女は黙ってそれを見下ろした。
小屋の中へ激しい風雪が吹き込みつづけて、びゅうびゅうと耳障りな音が鳴る。
どれほど凍てつく冷たさにも、髪を乱す風にも、女の表情は変わることは無い。
やがてゆっくりとその場にしゃがみこむと、男の首筋に冷たい手をあて、囁くようにたずねた。
「····生きているのですか?」
呼び掛けに答える声はない。
ただ、指先に伝わる脈動が、旅人の命がかろうじてこの世に踏みとどまっていることを伝えている。
―――生きているのなら、招かねばならぬ。
女は男の両脇に腕をさしいれる。
衣が擦れる音。
抱き抱えた拍子に男の頭から藁笠がころりと落ちて、雪の上へ転がっていった。
女はそのまま、その男を自らの小屋の中へと引きずり込んだ。
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