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 抗うべくもなし。  美しさも、またそのさだめのひとつ。  その女に目を奪われずにいられる人間など、この世にあろうか。  俯いて火箸で炭を転がす女の横顔に見惚れたまま、男はごくりと唾を呑んだ。  薪の灯りに照らされた、透けるように白い肌。赤く色づいた唇。あるいは、首筋で緩く結わえられた艶やかな黒髪から、少しだけこぼれている後れ毛。  ―――まるで、この世のものとは思えぬ。  男は感嘆の吐息をこぼすと、噛み締めるように呟いた。 「····命絶えてもやむなしと、途方にくれていたところであった。しかし、このような雪深い場所に人の住みかがあるとは、まさに天の助け。―――深く御礼申し上げる」 「····助けたのでは、ございませぬ」     女が、ちろりと自らの唇を舐める。
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