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「――わたくしは雪原の鬼。あるいは、雪女。迷いこんだ旅人の、魂を食ろうて、存在しておりまする。ゆえに、礼など、いただけませぬ」
ただ淡々と。
女はその恐ろしい事実を口にした。
言われてよぉく見れば、壁に映る女の影には、二本の角。
「鬼···」
「哀れな旅の御仁。この雪原にひとたび迷いこめば、もはや、出ることはかないませぬ。それが、さだめ」
この小屋も、囲炉裏も、蓙も、炎も。
幻でしか、作れはせぬのです。
ゆえに目に見えるものは、すべて、幻。
女の瞳に、透明な何かが、ゆらりと点る。
「·····逃れられぬ、さだめ」
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