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美しい人を捉えてしまった。
僕は首からカメラをぶら下げたまま、口をぽかんと開いてそう思う。
被写体を探し疲れて、何となく繁華街の方を歩いていた。
そうしたら彼を見つけてしまったのだ。
僕の瞳は彼に釘づけにされている。
とにもかくにも綺麗な男性だった。
透き通るような金の髪、整った顔立ち、獅子のように鋭い目で前を見つめて、颯爽と歩いている。
彼の威風堂々とした佇まいに、他の通行人たちは道を譲ったり身をのけぞらせたりと忙しい。
その人が目の前を通りすぎる。
一瞬だけ視線が合う。
僕は過ぎ去るその人に声をかけずにはいられなかった。
「あ、あのっ!!」
声をかけると、彼は立ち止まった。
「……何?」
「あ、あの、しゃ、写真っ」
「しゃしん?」
「写真です! ぼ、僕の学校の課題で、被写体を探していて……その、しゃ、写真を撮らせてくれませんか!?」
どもりながらも一生懸命にお願いをする。
「俺を被写体に……?」
すると彼はキョトンとした顔を浮かべて、それから微笑んだ。
「別にいいよ」
琥珀色の瞳に射止められて胸がどきりと高鳴る。
「ほ、ほんとですか?」
「ああ。どこで撮る? 場所を変えたいならどこへでも行くけど」
「あ、こ、こここっ! ここでいいです!」
ニワトリみたいな鳴き声を喉から搾り出して、すぐにカメラを構えた。
彼は眉をくもらせている。
「ここでいいのか?」
「は、はいっ!」
彼は拍子抜けしたような表情をしているが、彼を撮るならこの雑踏がいいと思った。
どこにでもある繁華街。
いつも通りの通行人が歩く道端。
そこに一人だけ佇む美しい彼。
その日常と非日常の融合をカメラに納めろ!と、僕の撮影魂が声を大にして叫んでいる。
「まあ、別にいいけど」
彼はそんな風に気楽げにうなずいた。
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