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さっそく僕はカメラの調整や構図の見積もりに入る。
どうやって撮るのがベストだろう、光の量や角度にも気を付けたいし、表情も自然な状態で撮りたい。
「なぁ」
彼が声をかけてきた。
「あ、は、はいっ、もしかしてやっぱり辞めたいとかですか!?」
「そうじゃないって。あのさ、写真って楽しい?」
聞かれて、僕はためらった。
楽しい?
楽しいのだろうか。よく分からない。分からないから素直に答える。
「よく分かりません」
何となく父親のカメラを借りて色んなものを撮っている内に、そっちの道に進もうと決めただけで。コンクールの為、課題の為、就職の為。ともかく評価される写真を撮る。そうやって写真を撮ることにもう特別な感情なんて抱いていないつもりだった。
なのに。
「そうなのか? 準備をする君の横顔は楽しそうだったけどな」
そんな風に言われて。
僕はどうしてか笑みが止まらなくなってしまう。
「だって、とても素敵な被写体が見つかったので」
そう言って僕はカメラを構える。
雑踏の声が遠くなる。
彼は微笑む訳でも怒る訳でもなく、真っすぐとこちらを見つめてくる。
その表情には一体どんな感情が秘められているのか。
不思議な気持ちだ。
この写真に納まる彼の美しさは永遠に色褪せることはない。
僕の胸に再び宿ったこの気持ちも。
きっといつまでも色褪せることはないだろう。
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