本編

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◆  視界を何かに揺すられて、それが木々のざわめきであると気がつくと同時に幻影のフィルムは再生を終えた。  その後、知り合いだからという事で彼女の身を引き取り、この山に埋めたというのが事の経緯である。 「なぁ、ミキ。これは贖罪というわけでもない。ただ、俺が君を殺したのも事実なんだ」  廃鉄塔のどこかに立っていたカラスが飛び去った。  僕はリュックサックの容量の9割りを占めている何百枚にも折ったチラシの花を彼女の墓を隠すように流し込んだ。冥福を祈ったミキの石碑は、紙花に埋もれて姿も見えなくなった。  そして、唯一、ネットで折り方を調べた梔子の折り紙をその一番上に乗せる。 「許してくれとは言わない。でも、君もいずれわかるよ。本物のバケモノは僕たちの方なんだって」  いや、もしかしたら。君もまた在来人だったのかもしれないよな。殺されたのは俺のせいなんだから。 「あれからしばらく経つが、この国はもうボロボロだ。人々は擬人暗鬼に陥り、暴動が横行し、外来人は見境なく殺され始めている。それでも例の病は一向に収まらなくて、最近ではいつ死ぬかわからないのならと自ら命を絶つ在来人も現れ始めた」  リュックサックの一番奥に丸めていた研究レポートのコピーを、華の池の横に添えてもう一度彼女の墓を網膜に焼き付ける。焼く、という文字から煙草のことを思い出し、そこを後にした。  胸元からスマートフォンを取り出した。  ダイヤルの先は、PCを前にして待機している仲間の下へとだ。 「もしもし。私だ。決心がついたから、研究結果を世界に向けて公表してやってくれ。例の病と、外来人には何一切の関連性がないことへの化学的な裏付けを、だ」  この世界中の人々に、憎悪も皮肉も何もかもを込めての、最大級のR.I.Pを贈る。
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