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立ち並ぶ木々の一辺に、肩をすぼめるようにひっそりと洋型墓石が立っていた。擬装するためにツタを石碑中に巻き付けていて、棹石に刻まれた銘を隠したいのか白色の花と葵の葉が全容の6割近くを覆っていた。
この植物の名はシラネアオイだったか。
彼女の存在を知らない人間ならば、まずこの墓石に気づくことはないだろう。
着用していたゴム手袋をもう一度引っ張ると、その花やツタを取り払った。用心して根から引き抜いた。
すると、レーザーや工場によって刻まれたものではなく、コンクリートカッターで乱雑に抉られた「R.I.P」の文字が姿を現す。彼女の痕跡を示唆する唯一の存在証明だった。
リュックから水道水で満たされた2リットルペットを取り出した。盆帰りの気分で中の液体を暮石の上から垂らし、そこで雨脚がだいぶ遠のいていることに気がついた。フードを脱ぐ。
「やぁ。1年ぶりくらいかね」
――いいえ、2年ぶりよ。
そんな声が聞こえた気がした。
意識しないようにしてきたが、やはりこの瞬間にはあの時のことを思い出さざるを得なかった。私はまだ夢から醒めないらしい。
確か、君に初めて出会ったときもこれくらいの天気だった。
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