本編

5/10
前へ
/10ページ
次へ
◆ 「追い出そう!! 有害外来人」 「私たちの平穏を返せ」 「認められない多様性!!」 「バケモノは淘汰せよ」 「在来人よ、今こそ立ち上がろう」  電車が頭上を通過し、ガタンゴトンと柱を揺すった。  高架下のフェンスに掲げられた旗や横断幕を目に入れるたびに私は狼狽する。  彼らの貧相なボキャブラリーはもとより、悪人を立てることで盲目的に真っ当な国民活動に加担しているように錯覚していることに対してだ。  ここでいう外来人とは、異邦の人という意味ではない。  2020年近く同じ環境で生活し続けてようやく判明したのだが、人間には2種類が存在したのだ。  それは先祖からして全くの別物で、それでいて一般的な人間――こちらを在来種としている。単純に確認されている数が多いためだ――達と姿かたちはなんら変わらない。  主な特性は食べ物を必要とせず、水と日光のみで生存状態を保つことが可能なのだという。  いわば植物に似ていた。もしかしたら、彼ら自身も己の存在に気が付いていないのかもしれなかった。なんせ、水と日光のみで生活する機会は現代日本的にほとんどあり得ないからである。  そういった人種の存在が明るみに出たころ、マスコミは大々的に取り上げ、世間は新たな革新の希望として嬉々として受け入れ、ネット小説では外来人を扱ったジャンルが席捲したりと驚くくらいに日常に浸透していった。 ――と、いうのは数年前の話だ。  今、私たちは彼らを唾棄するものと定め、暴力的な手段も辞さないような状態に陥っている。  世界中で多くの人を死に至らしめている病は、彼らの存在因果があると発表したためだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加