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迫害から逃れるように狭苦しく交流を重ねる日々の中で、僕は彼女と約束を結んだ。
このフェンスに貼られた横断幕や旗を、全部花に折ってやろうと。ジメジメとしてばかりのこの世界に一度でも中指を立てられたなら、その後二人できれいな景色でも見に行こうと。
――今思えば、あの日々は幸せそのものだった。
高架下のフェンスには手作りの花が飾られ、市民団体がそれを撤廃して新しい張り紙を設置する。それにめげずにまた花を折る。そんないたちごっこを彼女と楽しんだ。
そんなある日のことだ。
高架下のフェンスに人だかりが形成されているのを、遠くからでも理解が及んだ。また市民団体が決起集会でも行っているのかと思ったが、その様子とは無縁の、おぞましい悪の影を感じるような、歪な空気が場を流れていた。
僕はその人だかりの後ろの方につき、前方にいた初老の男性の肩を叩いた。なんとなくだが、嫌な予感はしていた。
「何かあったのかね」
「外来人が見つかったんだ」その顔は僕に向けられているが視線の先には虚ろが見えていたにちがいない。どこか朦朧としていて、首はふらふらと鼻提灯にもにた律動を刻んでいた。
嫌な予感はさらに影を大きくした。
「俺たちの血筆を折り紙の花にして弄んでいたんだよ。今、世間を騒がせている病にこじつけた俺たちへの宣戦布告だぜ」
その瞬間、弾けるように初老の男を押し倒すと、何層も続く人の壁を強引に押しのけて前へ進んでいた。
力の限り。心臓は重く鈍い音を叩きつけている。
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