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青いサンタクロース
「俺の10円、盗んだだろ、お前!」
「知るか! ボケッ」
薄汚れた肌の男が吐き捨て走り去る。金を盗まれたと主張するおっさんは、男の背中を睨みながら地面に唾を吐く。
少年はペシャンコに潰された空き缶を拾い上げ、乱雑に積まれたゴミ山に放り投げる。
「なんで日本ってこんなことになっちゃったんだろうね。昔は裕福な国だったんでしょ」
幼なじみのカナエが憂う。
「想像もつかないな」
「アタシは今のままでも悪くないと思ってる派、なんだけどね」
「そうなの?」
「けっこう楽しいから」
この季節特有の湿度。カナエはくたびれたTシャツの胸元をパタパタさせた。膨らみはじめた胸が覗き、思わず目をそらす。
「僕は変えたいけどね」
「──やめたほうがいいんじゃない?」
なんで、と言いかけて口をつぐむ。カナエとの心の距離を感じてしまったからだ。
「いいじゃん。このままは、このままで」
少しかすれたカナエの声が灰色の空に吸い込まれる。このままは、ほんとにこのままでいいのだろうか。少年は眼下の川にプカプカと浮かぶゴミたちを眺めた。
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