解釈

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 昔からそうだった。同じ日に生まれて、顔も体格も同じなのに、何をやるにしても、キミはいつもぼくより上手くできた。他人から見れば大して違わないかもしれないけど、キミにもっとも近いぼくだからはっきりとわかるんだ――キミはぼくよりどれほど優れていて、ふたりの間にはどれほど差があると。  特に人間関係は、どうしてもキミのようにうまく築けられなかった。人懐こいキミと違って、ぼくは人と話すのが本当に苦手で、人との付き合い方にどうしてみ慣れないというか、いつもキミが助けてくれた気もした。  そういや中学校の頃から、真剣に陸上部の部活に打ち込む姿も実に格好よかった。  ぼくにはできない。と、キミの前にこぼしたら。 「そんなことないよ。やればできるし、やり続ければ慣れるよ」  キミもきっとできるはずだ。だってぼくらはもともと同じ人間なんだから――と、励ましてくれたね。  本当に強いね、キミは。  実を言うと、そんなキミにはいまでもうらやましかった。でも、だからって憎いやら妬ましく思うことは決してなかった。むしろ感謝し、尊敬し、誇らしく思っていた。  優秀なキミになりたかった。  だからこの三年間、なるべく優秀なキミらしく、父さんと一緒にキミの介護に励んできた。寝たままの着替え、オムツ替え、汚物の処理、胃ろうの操作、口腔ケア、清拭、洗髪、爪切り、体位変換やマッサージなど、在宅介護のいろんなスキルを覚えていき、最初こそはぎこちないけど、繰り返すうちにも次第に慣れた。学校の授業も部活も、生活のためのバイトも、体力的にはキツイけど、やればできる、やり続ければ慣れるとわかった。そして慣れたらもっとできる、苦手だった人間関係にだって、キミには負けないほどに、いまのぼくは――と、思ったら。  振り向けばそこにいるキミの顔。一番見慣れていたはずのあの顔、あのぼくと寸分違わない顔には、どうしても慣れない。  ぼくのと同じ顔が。  ぼくの顔。  口を半開きしてヨダレを垂らすぼくの顔。たまに開いてしまう焦点の定まらない目で、死んだ魚のように見えるぼくの顔。少しずつ血色が抜け、日々やせ細っていくぼくの顔。  オムツ替えとか、下の世話をするときにはなるべく顔を見ないようにしていたけど、いつも天井のほうからないはずの視線を感じる。  キミの顔で、無表情で見つめられるような感じだった。  あるいは、ぼくの顔で。  どちらにしても同じだが。  見つめられたぼくの顔も、きっと同じ無表情であろう。  しかし表情が無くても、そこで込み上げる感情は確かにあった。元気だった頃のキミの姿、自信の満ちたキミの笑顔が頭をよぎると、さらにいたたまれなかった。  このやり場のない気持ちを一体、ぼくはどうすればいいのか。  気持ち悪い。  キミの代わりに生きていくつもりなのに、なぜ死に損なった自分を毎日のように、醜い自分を毎日のように見せつけられ続けなければいけないのか。  なあ、ぼくはどうすればいいの。  どうすれば助かるの。  どうすれば助けてくれるの。      
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