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「首の皮一枚でつながって助かった」という言葉があるけれど、首のほとんどが切られ、つながっているのが首の皮一枚だけではやっぱり死んでしまうじゃないかと、昔からずっと疑問だったが――どうやら首が地面に落としてしまうと、尊厳をも地に落とすことになるから、切腹して散ってゆく当人の、人としての尊厳を助けようと、介錯の際に首の皮一枚を残すとの作法が生まれ、しまいにこの表現になったらしい。
尊厳か。
命を落としても、首の皮一枚でつないだから人としての尊厳が助かったのに対し、首の皮一枚で命をつないだのに、人としての、この救いようの無さはなんなのさ。
先生はね、望みはわずかだけど、意識はまだ回復する見込みがあると、三年前から何度も言ったよ。ちなみに先日も、父さんとぼくの奮闘するがいがあって、寝たきりの被介護者にしては、キミの体調は常に良い水準に保っていると言ってくれた。
もしかして近いうちに目覚めるかもと、父さんにまたへんに希望を持ち始めたけど、ぼくはそんなことを全く望んでいない。
もうあんな言葉に振り回されない。
こんなのいつまでも続けられない。
限界だ。
死なせたくないと思えば思うほど、死にたくなる。
こんな中途半端な死をこれ以上引き延ばしたら、ぼくはいつまでも中途半端にしか生きられない。
死にたくないから助けて。
死ぬから助けてくれよ。
弟思いの兄だなんて言われるのがもうまっぴらだ。
このままじゃ誰も助からない。
しかしそれでも、ぼくは助かりたい。
昔のように助けてくれよ。
紐の握った手に、力をこめる――僅かな可能性を、握りつぶす。
息が上がる。
息が苦しい。
誰か。
だれか。
一思いに。
ひとおもいに。
とどめをさして。
トドメを刺してよ。
息苦しい。
生きるのが苦しいよ。
思い切って死にたかったのに。
こんなんじゃ死んでも死に切れないんじゃない。
ちゃんと死んでくれ。
死んでくれ。死んでくれよ。
どうせ死ぬだから早く死んでよ。
お願いだから。
助けて。
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