第1章 砂の中の猫

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 七都は、ロボットたちを睨んだ。  彼らのいる場所を避けようとすると、丘を降りて、大きく迂回しなければならなくなってしまう。  瞬間移動しちゃおうか?  七都は思ったが、それもまた、迂回する以上に体力を使ってしまいそうだ。  無視すれば、何も起こらない。  カーラジルトの言葉を信じる。  あの猫たちは、何もしてはこない。  さっきも何もしなかった。ただ私を囲んで、見下ろしていただけ。  スルーだ。スルー。  七都は、猫の目ナビをつぶれそうなくらいに強く握りしめ、大きく距離を取って、そろそろと猫ロボットたちの前を通る。  七都が横切っても、猫ロボットたちは無反応だった。  整列したまま、半透明のオパールのような丸い目で、遠く地平の彼方を見つめている。  その立体図形のような銀色の体が、一瞬でも動くことはない。  いったいこんな砂漠の真ん中で一列に並んで、何をしているのか。何を見ているのか。  七都は疑問に思ったが、そんな疑問はきれいに消し去ってしまわなければいけない。関わりになってはならないのだから。  猫ロボットたちの前を無事に通り過ぎた七都は、ほっと安堵の溜め息をつく。  やっぱり、何も起こらなかった。こちらが仕掛けなければ、きっと向こうも何もしてはこない。  カーラジルトは何度も無事に通り抜けたのだ。  確かにカーラジルトなら、無視しそうだよね。七都は思う。  余りじゃれたくなる代物でもない。  全然魅力的には動かないし、かじっても歯型もつかない金属だし……。  華奢なつくりに見えるけど、あれは機械なのだ。猫パンチしたって猫キックしたって、びくともしなさそうだ。  七都は、ちらと後ろを振り返る。  整列した猫ロボットたちの姿は、もうなかった。先ほどと同じように。  砂の丘には、彼らが存在したという微々たる痕跡さえ皆無だ。  また、消えた。  これ……。やっぱり、誰かにおちょくられてる?  七都は眉を寄せ、何もない白い丘を眺めた。  あの猫ロボットたちも、瞬間移動が出来るとか?  それか、誰かが瞬間移動させている。  とにかく、夢じゃないことは確実だ。  七都は、再び歩き始める。  ああいうのが、風の都に着くまで、ずっとこんな感じで現れるのだろうか。  その度に緊張して、横を通り過ぎなければならない。憂鬱だ……。  それから、しばらく歩いたところで、それらはまた七都の前に現れたのだった。  今度は違うパターンで。
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