第1章 砂の中の猫

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 今回現れた猫ロボットは、二匹だった。  一匹は砂の上に座り、もう一匹はその隣に立っている。先ほどと比べると、随分と数は減っていた。  七都は、少しほっとする。  二匹なら、そんなに圧倒されることもない。  たとえ自分より小さくてかわいらしいロボットでも、団体で寝ているところを囲まれたり、ずらっと並んで整列されたりしたら、不気味としか言いようがなかった。    七都は、心持ち歩く速度を遅くして、猫ロボットたちを観察する。  何をしているのだろう?  体育座りをしている猫ロボットは、手に長くて細い木の枝のようなものを持っていた。  木の枝は先端に行くほどさらに細くなっていて、その先からは糸のようなものが下がっている。  釣竿だった。間違いなく。  竿から伸びた糸は、砂の中に埋まっていた。  水ではなく、砂の中に糸を垂らして、釣りをしている?  七都は、釣り糸の埋まった白い砂の地面を見つめる。もちろん、歩きながら横目で。  な、何が釣れるの? こんな砂漠の中で?  砂の中に何かいる?  素直に興味が湧き上がってくる。だが、七都はそれを押さえ込んだ。  無視だ、無視。興味なんか持っちゃいけない。  七都は、二匹の猫ロボットのそばを通り過ぎる。  彼らは相変わらず全く動くことなく、釣りを続けていた。  その四つの半透明な目も、砂と釣り糸の交わる地点に、固定されたように注がれている。  少し歩いてから七都は、思いきって振り返った。  やはりそこには、二匹の猫ロボットたちの姿はない。  やっぱり……。  七都は溜め息をつき、砂漠の旅を続ける。    小さな丘を二つほど越えたあと、七都は、立ち止まりそうになる。  真正面に、今さっきと同じ光景が出現していた。  すなわち、釣りをしている猫ロボットと、その傍らに立つ猫ロボット。あの二匹の猫ロボットだった。  そのポーズも位置も釣竿の傾け具合も二匹の距離も、まるっきり先ほどと一緒だ。  スルーしよ……。  七都は、同じように猫ロボットたちの前を通り過ぎる。  その時、釣り竿がビンとしなった。  七都は思わず、猫ロボットたちのほうをまともに眺めてしまう。  砂の中に何かが潜っていて、釣り糸をとても強い力で引っ張っていた。  砂の表面が盛り上がり、その盛り上がりがジグザグに動き回っている。  ぐい、と猫ロボットが釣竿を引いた。その猫ロボットが動いたのは、初めてだった。  手は球で出来ているので持ちにくいはずだが、それでもロボットは一生懸命、いじらしいくらいに竿を引いている。  この猫ロボット、思ったより動きが滑らかだ。  七都は、思う。  機械特有のぎこちなさなんて、まるでない。  竿が砂の中のものに引っ張られ、大きく曲がる。  いったい何が釣れる? この砂の中から?  七都は、息を呑む。  完璧に立ち止まっていた。もう無視するどころではなくなっている。  砂の中から何が現れるのか。その興味と期待で、ロボットたちに目が釘付けになってしまう。  猫ロボットは、上空に向かって竿をぐいと上げた。  何か銀色に輝くものが、白い砂の中から引っ張り出される。 「あ……っ」  七都は小さく声を上げたが、そうしてしまったことをすぐに後悔した。  猫ロボットが釣り上げたのは、同じ猫ロボットだったのだ。  三匹目の猫ロボットが、白い砂を粉砂糖のように散らしながら、砂の中から現れる。口があるあたりに、釣り糸をくわえて。  三匹目は、そのまま宙にゆらゆらとぶらさがった。  砂にまみれた猫ロボットは、表面が曇りガラスのようだった。  くっきりとした落書きが出来そうだ。  七都はごく軽く、がっかりしてしまう。 (なんだ。自分たちで遊んでいただけなんだ……)
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