第1章 砂の中の猫

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 今回もまた、前とは違うパターンだった。  例の銀猫ロボットが二匹。  数は同じだったが、釣りのときと違っているのは、二匹のそばに銀色の円盤が埋まっていることだ。 (UFOが、砂の中に埋まってる?)  七都は、猫ロボットたちに近づいた。もちろん、距離を取って。  さりげなく、彼らと彼らの横に斜めになって砂に突き刺さっている、銀の円盤を観察する。  UFOは、子供用のビニールプールくらいの大きさだった。  ぷっくり膨れたかわいいラインの円盤で、真ん中の操縦席らしいところは、透明な材質のドームで覆われている。  子供用遊園地にあってもおかしくないような円盤だ。ただ、カラフルな色はついていなくて、全部地味な銀色だったが。  どうやらこれは、この猫ロボット用の乗り物らしい。  ロボットたちは、その埋まった円盤の隣に座り込んでいた。どこかうなだれているような格好で。  なぜか砂に埋まってしまった円盤の横で、途方に暮れている猫ロボットの図。そんな感じだった。  七都が通り過ぎようとすると、猫ロボットたちは、寸分の狂いもない正確さで同時に七都を見上げた。  うるうるするような目が、七都に訴えかける。 <オネーサンの馬鹿力なら、これを砂から引き上げられるでしょう?>  何となく、そう言われているような気がした。  もちろん猫ロボットたちの仕草を見て、そんなふうに七都が勝手に想像してしまっただけなのだろうけれど。  うるうる目だって、光の加減でそう見えただけかもしれない。  うん。引き上げられると思うよ、たぶんね。  でも、ごめん。無視する。  七都は、円盤と猫ロボットたちのいる地点を通り過ぎる。  ロボットたちの無表情な視線が背中に張り付いた。  だって……。  七都は、くるりと後ろを向く。今度は勢いよく。  ロボットたちの視線が、背中から剥がれ落ちた。  ほら。  やはりそこには、UFOも猫ロボットも存在しなかった。  風が透明な白いベールをひらめかすように、丘の表面から砂を飛ばしている。  絶対やっぱり、誰かにおちょくられてる……。  七都は前に向き直ったが、その先には今まで背後にあったはずの光景が、そのまま現れていた。  むろん、あの猫ロボットと、砂に埋まった円盤だ。  うわ、早っ……。  七都は、深い溜め息をつく。  仕方なしに、七都は砂の上を進んだ。  近づくにつれ、先程とは違う箇所があることに七都は気づく。  一人、増えていた。  猫ロボットではない。もっとはるかに背が高かった。  真っ黒いマントをまとっている。人だ。  もっとも、この魔の領域の中でただの人間であるわけがないから、魔神族、もしくはアヌヴィムということになる。  男性のようだった。背が高く、マントのシルエットからすると、がっしりした体格のような感じがする。  髪はチョコレート色。あまりにも懐かしく、おいしそうな色なので、七都は、元の世界のあの甘い四角いお菓子を思い出す。今の七都にとっては、当然食べられそうもないものだったが。  マントの人物は、円盤の前に突っ立っていた。  七都からは、後ろ姿しか見えない。  七都が近づいても、二匹の猫ロボットもその人物も、動かなかった。彼らもまた、七都を無視している。今のところは。  その人物の横を通り過ぎるとき、七都は、はっとする。手が無意識にメーベルルの剣に伸びた。  七都は、そのマントの人物の横顔を凝視する。  マントをまとっていたその男性は、グリアモスだった。  七都が知っている下級魔神族は、二つの姿を持っていた。  四つん這いの獣である巨大な猫のグリアモスと、美しい魔神族の人型の姿。  七都を襲ったグリアモスたちにしろ、カーラジルトにしろ、そのどちらかの姿を取っていた。  だが今、円盤の前に佇むグリアモスは、違っている。  頭は確かにグリアモスだった。チョコレート色の毛むくじゃらの顔に、薄い青一色の目。線のような黒い瞳。ぴんと伸びた銀の髭。  とがった耳の片方には、蝉をかたどったような金のピアスを留めている。  だが、彼は二足歩行だった。  その体は、銀色の鎧のような金属で覆われている。まるでロボットのような鎧だった。  強いて表現するなら、中世の騎士の鎧に似せたロボットの体の上に、猫の頭を乗せ、黒いマントを着せたような。そんな外見のグリアモスだったのだ。
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